「好きです、付き合ってください。」
「ごめんなさい。」
俺はその日失恋した。
告白した相手は同じクラスの女の子。
決して近寄りやすい人ではないが、そのしっかりしているようで少し抜けているそんな雰囲気が僕俺の興味を惹いた。
名字が近いこともあって席は前後、帰る方向も途中まで一緒で話す機会もあった。
クラスが変わってしまう前に告白しよう、そう決めて俺は終業式の後彼女を呼び出し—フラれた。
「あーこんな気分のまま春休みかよー。」
「仕方ないだろ、次だ、次。」
「でもよー、あんな良い子そうそういないぜ。」
「いるって。お前日本に150万人もいるJKの内何人知ってるんだよ。」
「そうだけどさー……あー空しいなぁ。」
唯一その子のことを相談していた友人、俊宏を家に呼び出して愚痴を垂れ流すことにした。
よく2人でプレイするテレビゲームをしながら、適当に感情をぶつければ少しは気も紛れる。
「よっしゃ勝った!」
「ちくしょー恋に破れ、ゲームでも負けるかぁ……」
「そんなことばっか言ってないで、早く忘れようぜ」
「忘れられたら苦労しねーよー。はぁ」
俺はため息をつきながらゲームの電源を落とし、ベッドに寝っ転がった。
「えっ、もうこんな時間!?ちょっとテレビ見てもいい?」
「いいけで何か見るの?」
「おう、俺が毎週見てる笑点の時間だ。」
「そんなの見てるのかお前、まぁいいけど。」
「さんきゅ」
そういうと俊宏は日テレを点けて、テレビの前で正座した。
時刻は5時28分、笑点まではまだ少し時間がある。
テレビはCMを垂れ流していた。
それは突然だった。
「椎名心実です」
「あかねっ」
「なおー」
「いちごです」
「時谷小瑠璃」
「ふみお」
「くおえうえーーーるえうおおおですよ」
「「「ガールフレンド(仮)は」」」
「アメーバで検索っ検索っ♪」
時が止まったかのように感じた。
俺はベッドに転がって俊宏の背中越しにぼーっとテレビ画面を見ていた。
すると突然呪文のような言葉が聞こえたかと思うと、傷心中の俺に「ガールフレンド」という単語を浴びせてきた。
「ガールフレンド(仮)だってよ。今のお前にピッタリじゃん。」
俊宏が茶化す声も耳に入らない。さっきあの子は何て言った?
「くろえ……」その先は言葉になっていなかった。
何故CMなのに視聴者に伝わらないようなものを作るのだ、皆目見当がつかない。
気になる、くろえなんとかちゃんのことが。
もしかして、この気持ち、”恋”、なのか。
そう気付いた時、僕はスマホを手にし「ガールフレンド(仮)」をダウンロードしていた。
会員登録を済ませ、チュートリアルもさっさと終えた。
俊宏の笑い声が聞こえる様な気もするが、俺はいつくろえなんとかちゃんが現れるか、それだけが気になっていた。
しかし、どれだけガチャを回してもくろえちゃんは出てこない。
俺はATMに走った。
「おい、何してんだお前」
俊宏の声に耳も貸さず走った。
もし告白したあの娘と付き合ってたら旅行に行きたいと思って、親に内緒で貯めたバイト代をAmebaに振り込むために。
5000円課金してもくろえちゃんは出てこなかった。
俺はガチャを回しながらATMに走った。
1万円課金してもくろえちゃんは出てこなかった。
俺はネットバンキングの存在を思い出してパソコンから振り込んだ。
2万円課金し、ガチャを何回まわしただろうか、遂にその子は現れた。
「くおえうえーーーるえうおおおですよ」
「やっと会えた、くろえちゃん……」
俺は感動のあまり、名前もよく分からないその子にキスをした。
名前なんて分からなくてもいい、話したことがなくてもいい、君こそが僕の彼女(ガールフレンド)だ。
一度はフラれたが、今はガールフレンド(仮)のイベントランキングで全国ランカーになんて、隣には”クロエ・ルメール”ちゃんがいる。
それで幸せではないか。
僕は今日もバイトをする、そしてその金で女の子と遊ぶ(課金する)。
世界よ、僕は幸せを掴んだ。
これが愛だ。
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