オナニーを禁じられるなんておかしなことだ、と昔は思っていたが、子供の僕は言いつけを守るしかなかった。
今は3日に1回くらいはするし、昨日はどんなオカズで射精したかという話は親しい友達とならするようになった。
昔の僕は周囲の人たちによって、ちょっとだけ歪められたんだろう。
10年前、小学5年生だった僕には友達がほとんどいなかった。
数少ない友達の中で今でも名前を言えるのは、隣の家に住んでいた5年生の康史君くらいだ。
僕も康史君も両親が共働きだったから、子供が夜遅く一人になる時はどちらかの家で子供を両方とも面倒を見る、という約束があったらしく、たまに互いの家でご飯を食べるくらいの関係が続いていた。
お風呂やリビングは康史君の家の方が綺麗だったが、夕飯は僕の母さんが作ったものの方が美味しかった。
だけど、それは単に自分の母親の味に慣れていて、他人の家庭の味を受け容れられなかっただけだろう。
美味しいけど、味付けが何となく気に食わない彼女の手料理を食べた時にそう思った。
まぁとにかく、僕らはそうやって月に何回か互いの家で過ごしていたんだ。
夕飯を食ったり、夕飯後にテレビを見たりするのはリビングだったから、僕らが2人きりになるのは風呂の中だけだった。
そこで僕らは親に聞かれたくない話を色々していた。
先生に怒られた話とかクラスの好きな女の子の話とか、オナニーの話も風呂の中で康史君に聞いた。
というか見た。
康史君の家にお世話になっていた日だと思う。
僕より先に身体を洗って湯船に浸かっていた康史君は、髪を洗う僕の視界の端で何か変な動きをしていた。
シャンプーが目に入るのが怖くて、髪を洗い終わってから康史君の方を見てみると、下半身の方を押さえながら手を動かしていた。
何してるの、と尋ねると「マスベだよ」と手を動かしながらそのまま教えてくれた。
僕が「ますべ?」と聞き返すと、まぁ見とけと言わんばかりに手を更に激しく動かし続けて、しばらくすると康史君は水しぶきを上げながら威勢よく立ち上がって、えいっと言いながら風呂場の床にアレを出した。
当時の僕にとっては、あそこがいじると大きくなる、くらいの知識しかなかったもので、とても満足そうな康史君を見ると何だか羨ましくなった。
「お前もやってみろよ」と康史君が言うので真似てみたが、中々うまくいかなかった。
何の変な気持ちもなしに「おかしいなぁ」と言いながら康史君が僕のアレをしごいてみたが、特に何も起きなかった。
自分が触るよりちょっとくすぐったく感じたが。
その日はそれきりで、夕飯を食ってテレビを見て宿題をして、いつも通り10時頃に母さんが迎えに来て自分の家に戻って寝た。
さっきも言った通り、僕は悔しかった。
次の日は、特に母さんが遅く帰ってくることはなかったので、公園で遊んだあと自分の家に帰った。
僕は汗と泥まみれで、家に帰ると風呂へ直行するのが日常だった。
風呂場で、僕は君らの予想通り「マスベ」をやってみることにした。
自分の家の風呂だからか、リラックスして目をつぶって上下にしごいていると、すぐ固くなって身体が湯船の温度以上に熱くなるような気がした。
そのまま無我夢中にしごいていると、股間がむずむずするような感触の後、すぐに射精してしまった。
気持ちよすぎて手足はガクガクで身体から力が抜けきっていた。
そのまましばらく力が抜けたままぼーっとしていたが、風呂のドアを叩かれ「のぼせてるの?早く上がりなさい」と母さんから声をかけられ、そそくさと僕は風呂を出た。
風呂場を出た後も、あの幸福感のようなものが忘れられず、自分の部屋に戻って夕飯の時間まで布団の上でぼーっとしていた。
どれくらい経ったか分からないが、おそらく1時間くらい横になっている間に、仕事から帰ってきた父さんに「飯だぞー」と声をかけられるまで眠っていた。
その日の夕食後、僕は突然父さんの部屋に呼び出された。
不思議がりながら、父さんの部屋に行くと座布団の上に座らされ、「なぁ、今日風呂で何かしたか?」と聞かれた。
僕は直感的に、アレがダメなこと、叱られることなのだと悟って誤魔化そうとしたが、態度でバレバレだったのだろう。
「母さんから聞いたよ。風呂に入ったら白いのが浮いてたって。由紀乃が気付く前に母さんが気付いて良かったが、由紀乃に悪影響だからな? やるなら、こっそりやれよ」
父さんはそう言いながら苦笑いしていた。
とりあえず、マスベはあんまり良くないことを僕はその時教えられた。
父さんは続けて
「それにしても、もうオナニーとか知る年なんだなぁ……このマセガキめ」
と言いながら僕の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
オナニーはマスベと一緒なのかな、と思いながら僕は父さんのされるがまま撫でられていた。
そこまでは良かったんだ。
そこに皿洗いを終えた母さんが入ってくるなり、僕の頬を平手で叩いて
「二度とこんなことをするんじゃありません!!」
と目を赤くして怒鳴って部屋から出て行った。
滅多に怒られない僕は、茫然として泣き出して部屋に戻った。
由紀乃は僕の2つ下の妹だ。僕の後に母さんといつも風呂に入っている。
康史君の家にお世話になる日も、男の子ほど外で暴れないので僕たちの母さんと夜中に風呂に入っていた。
ここまでが小5の時の話になる。
後日談を話すと、次の日、僕は学校で康史君に「マスベはやめた方がいいぞ。母さんに叩かれる」と言ったら、康史君もそれ以来風呂でマスベをすることはなくなった。
僕と同じようにバレたのか、それとも僕が知らないだけで康史君の母さんは怒ると物凄く怖いのかもしれない。
ここから話は中3に飛ぶ。
僕はあの日以来オナニーをしていなかった。
この頃は友人たちがオナニーと言う語を使っていたからそう呼ぶ。
授業中にトイレでオナニーをする猛者もいたが内心軽蔑していた。
中3になれば、ある程度正しい性知識と、それ以上にネットや噂で誤った性知識を獲得することになる。
あの時の自分の行為の意味を知り、それを汚いと認識した。
射精はセックスの結果、為されるべきであると結論付けていた。
しかし、当然ながらクラスメイトの女子の制服から透けるブラジャーなどが目に入ると、しばしば勃起してしまい、その度に自分の浅ましさを責めていた。
12月くらいだった気がする。
高校受験が近づいて来て、僕はこれまで以上に勉強に専念していた。
冬休みに入るとクリスマスなどといったイベントには目もくれず、一日中家で勉強していた。
そんなある日、僕はある過ちを犯した。
その日も僕は朝から自宅で勉強に専念していた。
数学に不安があったので、毎日朝は数学に取り掛かることにしていた。
イヤホンで耳を塞いで集中して取り掛かろうとしたが、乾いたノックの音によって遮られた。
自室のドアを開けると、英語の参考書を胸の前で抱えた由紀乃が立っていた。
「お兄ちゃん、受験で忙しい時にごめん。ここだけちょっと教えて」
「あぁ、ちょっとだけな」
基本的に由紀乃に優しい僕は、イヤホンから漏れ聞こえる音楽を止めて、由紀乃を椅子に座らせて勉強を教えることにした。
由紀乃が教えて、と言ったのは現在進行形と疑問形を組み合わせた英文で、確かに中1には少し難しいものだったかもしれない。
「じゃあ、これを訳してみ」
と言って僕は簡単な英文をプリントの裏に書いて由紀乃に和訳させることにした。
由紀乃は丁寧にS、Vと単語の下に書いて丁寧に訳そうとしていた。
勉強にも何事にも真面目な妹に育って良かった。
しかもこれで容姿が良いのだからさぞクラスの男子にもモテるだろう。
当時の僕はそんなことを考えながら、由紀乃が問題を解いている姿を見ていたんだと思う。
「はい、お兄ちゃんこれでどう?」
由紀乃が書いた和訳は多少ぎこちないが、文法も単語も誤りはなく、テストなら満点の解答だった。
「うん、正解。これで大丈夫だな」
僕はそう言いながら由紀乃の頭を撫でた。
由紀乃を褒めるだけの意図じゃなかった。
触れたかった。
しかし、そんな意図に気付く訳もなく由紀乃は満面の笑顔でそれを受け容れた。
ここで僕はやめるべきだった。
たとえ、に対して下劣な感情を抱いているにしても、その妹を撫でた手で自分を慰めていれば、少なくとも迷惑はかけない。
当時に戻れるなら自分を殺して止めるであろう。
だが、当時の僕にはオナニーをするという考えはなく、性欲のやり場はなかった。
由紀乃の頭を撫でている手を少しずつ下ろし、肩に手を当て
「由紀乃」
と耳元で囁いて、僕の方を向いた由紀乃の唇にキスをした。
ほんの一瞬のことだったと思う。
具体的には思い出せない。
唇を離してしばし無言で由紀乃を見ていると、由紀乃は
「そっか……受験頑張ってね、お兄ちゃん」
と言って参考書を持って僕の部屋を出て行った。
出ていくときも由紀乃は笑顔を崩さなかった。
僕のパンツは濡れていた。
こっそり洗面所でパンツを洗っていると、さっきの由紀乃の笑顔が思い出されて涙が出た。
結局、由紀乃に謝る機会はなく、しかしその日の夕食の食卓でも由紀乃に変わった様子はなく、僕にもいつも通り喋りかけてくれた。
僕も何もなかったフリをして次の日以降も暮らしていき、第一志望の高校にも合格することが出来た。
受験を邪魔しないという気遣いなのか、彼女の真の優しさなのかは分からないが、そこで大きく道を踏み外さずに済んだのは彼女が黙っていつも通りにしてくれていたお陰だ。
もっとも、僕は思春期を拗ねらせて、妹に恋をしてしまっている時点で道を踏み外しているのだが。
しかし、由紀乃との一件で僕はある決意をした。
高校で彼女を作って、まともな高校生活を送る、そう心に決めた。
彼女を作るのは案外簡単だった。
同じクラスの女の子と自然と仲良くなって、高校1年が終わるころには付き合い始めた。
その間も彼女を思ってオナニーをすることなど決してなかった。
付き合い始めてからも下校中に手を繋ぎ、別れ際にキスをするくらいだった。
しかし、時がたてば変化は訪れる。
高校2年の夏休み、暑さを避けようと僕は彼女と駅で待ち合わせてカラオケに行った。
僕も彼女も歌は下手でも得意でもなかったが、よくカラオケにはお世話になっていた。
ただ、僕は彼女のハスキーな声が好きだった。
やっぱり良い声だなぁと思いながら目を閉じて彼女の歌声を聞いてると、間奏に入った瞬間、唇に何かが触れた。
僕はその感触と同時に鼻をくすぐる匂いを感じて、彼女を抱きしめた。
しばらくそうしている内に間奏が終わって最後のサビに入ろうとしていたが、彼女はマイクを取らず俺から離れなかった。
普段キスをする時もちょっと触れ合うくらいだし、体をこんなに密着させているのは初めてだ。
しかし、当時はそんなことを考えずただ目の前の彼女を抱きしめていただけだった。
曲もほとんど終わりかけになってくる頃、彼女は僕の股間に手を伸ばして、ズボンの上から揉み始めた。
俺は目を開いて、とっさに彼女の手を跳ね除けようとした。
彼女は驚いたような目で僕を見た。
そうか、跳ね除けるのも男子としては変な反応だと思って僕はごまかすように彼女の胸を揉んでみた。
すると彼女は僕のズボンのチャックを下して中のモノをいじり始めた。
僕もそうすべきだと思って、彼女の陰部をパンツの上から触ってみた。
しかし、僕の身体は言うことを聞かなかった。
好きなはずの彼女に股間をいじられても、全く勃起しなかった。
彼女は次第に僕のモノをいじるのをやめ、それに合わせて僕も彼女のパンツから手を離した。
僕らの間には会話はなく、カラオケボックスのテレビから流れる陽気な音楽が余計に耳に障った。
僕は彼女から目をそらして、ズボンのチャックを上げていると、突然彼女に頬をはたかれた。
振り向くと彼女は泣きながら、僕をインポだと罵った。
やはりそれに怒ってしまった僕は、彼女の頭を叩いてしまった。
彼女は一層泣き出し、怯えて縮こまってしまった。
僕はどうすることも出来ず、金を置いて走って逃げた。
冷静さを取り戻したときには全ての取り返しがつかなくなった。
やはり、僕は妹を好きになった時に死ぬべきだったのだろう。
高校を卒業して大学に進学した直後、僕が何をしたかは、これを手に取っている人は知っているかもしれない。
これまでのことは、ほとんどの人がしか知らないだろうから丁寧に書いたけど、その後のことはテレビを見れば分かるだろう。
僕は性的に歪んでいる。
歪んだきっかけであろう小学生の出来事を書いたのは責任を逃れるためだと言われても何も文句は言えない。
しかし、オナニーをした僕を叩いた母親に責任はない。
僕が悪いのだ。
僕は女性を無理矢理犯してしまった。
そして、殺してしまった。
そして、その瞬間射精してしまった。
僕は死ぬべきタイミングを逃してきたが、今の僕は自分で自分を殺さなくても、社会から死ぬべき存在として認知されている。
人を犯し、殺し、自分が死ぬ資格があると思うこと自体おかしいのかもしれない。
僕は性的にだけでなく、全てが歪んでしまったのかもしれない。
この遺書を見つけた方は、僕の死体の場所を警察に連絡してもらえると警察が助かると思います。
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