耳慣れない電子音に、夢の淵を彷徨っていた意識が、ゆっくりと現実に引き戻された。重い瞼をこじ開けて、ぼやけた視界がやっとちゃんとした像を結んだその時、私はベットから飛び起きた。淡くオレンジがかった壁。最小限の明るさで灯る照明。家具らしい家具も無い、見慣れない部屋。ここは何処だ?
 再び目を閉じ、少し湿っぽい空気を吸い込んで、混乱中の頭を落ち着かせると、答えはすぐに出た。そうだ、ここは私の部屋。私の新しい住処。神を喰らいし者に選ばれた私の……。
 アラガミ。2050年代に突如として出現したこの生物は、地球上のありとあらゆる物を喰らいながら急激な変化を遂げ、高度に発達した科学技術によって我が物顔で地球を支配していた人類を、滅亡の危機にまで追い込んだ。通常の兵器の全く通じないその強大な力に、畏怖の念を込めて人々はアラガミと名付けた。そうして神の名を冠する者達が生態系の頂点に君臨し、世界の新たなる支配者になるのも時間の問題のように思えたその時、人類は神に対抗する術を見いだした。
 アラガミはオラクル細胞と呼ばれる細胞と、それを統率するコアから成っており、このオラクル細胞の中に、偏食因子と呼ばれる、“あらゆる物を捕喰出来る能力を持ちつつも、特定の対象しか捕喰しない”という特性を発見した人類は、これを利用することでオラクル細胞を制御しアラガミに対抗する方法を編み出した。初めの内は、アラガミでも喰らうことが出来ないような装甲といった、防御手段の構築しかできなかったが、それによって以前とは比べ物にならない程の小規模なものではあるものの、外壁に守られた都市が出来上がった。都市というシェルターの中でひとまずの安全を手に入れた人類は、さらに研究を進め、ついにアラガミを攻撃する為の兵器を生み出した。
 神機。“アーティフィシャルCNS”と呼ばれる、人為的に調整されたコアを有するアラガミそのもの。人類の持つ、アラガミに対する唯一の攻撃手段。通常、オラクル細胞の群体であるアラガミに対し、切断等の物理的な攻撃は意味を成さないが、神機はそれ自身を構成するオラクル細胞によりアラガミを喰らうことによって、アラガミに損傷を与えることを可能にした。そうしていつしか、この神をも殺す兵器を操り、アラガミと戦う者達を、人々は"ゴットイーター"と呼ぶようになった。
 徐々に大きくなっていく電子音。それに伴い明るさを増す照明。私は大きく伸びをして立ち上がり、ベットから降りて壁についた端末を操作して、目覚ましを止めた。ここ、フェンリル極東支部に来たのは五日前のことで、そろそろ自分の部屋というものに慣れてもいい頃なのだが、如何せんこれまで部屋はおろか寝る場所すらまともになかった生活を送ってきたために、朝目覚めた時にふと自分がどこにいるのか分からなくなってしまうのだった。洗面台で顔を洗い、寝間着から軍服に着替える。黒のシャツに、背面にフェンリルのマークのある緑に赤のラインが入ったジャケット、暗い焦げ茶色のズボン、黒のブーツ。入隊時に支給された軍服はこれとは違う物だったのだが、やや胸の強調されたようなジャケットと、太もものスースーするショートパンツが気に食わなかった私は、ゴットイーター入隊時になけなしのお金をはたいて男用のジャケットをわざわざサイズを合わせて仕立ててもらい(というよりほぼオーダーメイドだった)、長ズボンと合わせることにした。色気が全く無いに等しいが別にいいのだ。これまではぼろぼろの布切れの様な服を着ていたからか、少しそういった服に抵抗があるだけだ。それに、もとから胸が大きい方ではないし。茶に近い赤毛に、緋色の瞳。鏡に映る自分を見つめ返しつつ、服を整える。
 軽く身体をほぐして、私は自室を出た。廊下を抜け、エレベーターに乗り込む。アラガミの出現以降、人類はアーコロジーという、生産・消費が自己完結した人口密度の高い建造物で成る環境完全都市に住んでおり、特に極東支部は防衛の観点から支部拠点施設が地下に張り巡らされていることから、居住区、食料生産区、工場区などを含んだ支部の施設全体を、俗に"アナグラ"と呼ばれている。アナグラの、通路とそれぞれの役割を持った無数の部屋が張り巡らされた迷路のような構造には、この五日間ずっと悩まされてきたが、昨夜やっとこさ地図を頭に叩き込み、今日こそは道に迷うこと無く目的地に辿り着くぞとエレベーターのボタンを押そうとしたその時、廊下の向こうから人影が走ってきた。
 「おーい、ちょっと待った!俺も乗る!」
 そう叫びながら向かってくるのは、私と一緒にフェンリルに入った神機使い、藤木コウタだった。黒と黄色のノースリーブの上着とニット帽、オレンジの膝丈の短パン、と明るい色のファンシーな服装は、彼の性格をそっくりそのまま表しているようで、よく似合っている。気さくで常に調子よく振る舞う彼は、所謂私の同期にあたるわけで、やや心配なところがあるものの、今後かなり深く関わるであろう存在が彼で良かったと、私は会って一週間も経っていない彼のことをそれなりに好意的に見ていた。まぁ、私にとってただ単に付き合いやすい部類の人間だってことなのかもしれないが。コウタの渾身のダッシュを眼前に、無情にも私の指は閉ボタンに伸びる。
 「ちょ、おま!」
 あともう少しというところで、コウタが↑ボタンを押し、ドアは再び開いた。息を切らしてエレベーターに乗り込み、コウタは言った。
 「今のはひどいぞ、アルル」
 「でも間に合ったじゃない」
 「そういう問題じゃないって」
 何となくからかってやりたくなる雰囲気を醸し出す彼がいけないのだ、と心の中で呟いて、私は食堂のある階のボタンを押した。
 「コウタも朝飯だよね?」
 「おう。今日の予定は、初の実地演習でいいんだよな?」
 「うん。昼まで最終チェックしてから、夕方に出発だったはず。お互い別々に、だけど」
 極東支部に配属されてから五日間ずっと、私達二人は新兵として支部内にある訓練施設でひたすら訓練をし続けてきたのだった。アラガミと闘うための知識と技術の全てを習得するために。今日はついに支部を出て本物のアラガミと対峙する、いわば初陣の日で、期待と不安の入り混じった……というよりも心配と不安でいっぱいな私は、そんなもの微塵も抱えていなさそうなコウタを少し羨ましく感じた。そのように振舞っているだけなのかは分からないけれど。
 二人一緒に食堂で簡素な朝ご飯を済ませ、訓練施設に向かおうとした時、思い出したようにコウタが言った。
 「そうだ。まだ時間あるだろ?屋上行ってみようぜ、アルル」
 「屋上?そんなとこあったっけ?」
 「いやぁ、この前他の神機使いの人から、第五汎用倉庫管理塔の屋上に行けるって聞いてさ」
 「なるほど」
 コウタについて行く形で、私は第五倉庫へと向かった。幾重にも分かれた通路を歩き続け、エレベーターを三回ほど使ったところで、私達は目的地に着いた。一度も道を間違えず、迷うことすらしなかったコウタに、軽い嫉妬を覚える。何故そんなに道を覚えるのが早いのかと訊ねたところ、秘密基地みたいで楽しいじゃんと返ってきたのでデコピンしてやったのは、記憶に新しい。
 管理棟の古びた階段を上がっていく。鈍い足音を立てて、ひたすら上へと上がり続けると、錆びついた一枚のドアに辿り着いた。コウタが促すままに、私はそのノブに手をかけ捻った。軋んだ音を立てて扉がゆっくりと開く。
 「うわぁ」
 思わず声が漏れた。果てなく遠く、深い、紺碧の空。掠れた雲がわずかに浮かんでいる。
 「おっ、中々いい景色じゃん」
 コウタも上を見上げた。管理塔自体は他の数ある建物と比べ、そこまで高くもないため、アナグラの地表部を見渡すとまではいかないが、上方向には遮るものがないために、空ははっきりと見える。太陽はすっかり上がってしまっていた。
 「って、いつまで上見てんだ?首疲れるぞ」
 まだ空を見上げたままの私に、コウタが言った。仕方ないじゃない、見たのはこれが初めてなのだから……とは口に出さず、ただ頷いて視線を下に戻す。
 フェンリル。“人類の保護と科学技術の復興”を掲げて活動する世界規模の組織。または、オラクル技術を占有し、アラガミと戦う世界的組織。アラガミ発生当初、存亡の危機にあった人類を導いたこの組織は、少し見方を変えれば実質現在の人類の支配者とも言える。オラクル技術が無ければアラガミに有効な対抗手段をもった都市など作れないわけで、激減した人口のほぼ全てが安全な生活を得るために、フェンリルの作り上げた都市に移り住んだ。もちろん、世界各地にこういった支部を設立し、協力し合いながらアラガミと戦うフェンリルの目的は、決して人類の支配などではなく、復興なのではあるが、だからといって配下に下った人間が単に救われるわけではない。拡大の難しい都市内は常に人口過密な状態で、慢性的な物資不足は免れることができず配給制が敷かれ、貧富の差は大きい。居住区と呼ばれる、一般的な人々が住む空間はまだマシな方だが、その中でもスラム街と言われる、特に貧しい者達が住む地区は、治安も生活環境も劣悪で、病気や犯罪で命を落とす者も少なくない。私はといえば、スラム街の中でも最も過酷な状況にある、地下スラムと呼ばれる所に住んでいた。名前通りそこは地下にあるスラム街で、陽の光は一切入ってこず、電灯だけが唯一の光源のような場所だった。
 人も物も、必要とされていないものが集まる場所。薄暗く、かび臭い、暗闇の世界。秩序なんてものは存在せず、力が全てだった。居住区では機能しているフェンリルの統制も、地下スラムではほとんど意味を成していなかった。まぁ、例外というものはえてして権力者にとって好都合な面も持ち得るわけで、わざと放置されているという噂もあるが。実際、私だって、フェンリルの高官の違法な取引の手引をしたこともある。
 そんなわけで、地上、ましてや空など想像したことすらなかった私は、眼前の景色にただただ驚いていた。フェンリルの配下にある者全てに義務付けられている適合試験に運良く合格し、ゴットイーターになってからの五日間、何度も窓越しに外を見たことはあったものの、ここまでの感動はしなかった。大きく息を吸い込んで、全身で初めての風を感じてから、私はコウタと共に訓練所に向かった。

 「ふぁ?」
 訓練所の出口付近にあるベンチにもたれかかり、私は訓練で強ばった身体の力を抜いた。壁にかかった時計を見ると午後三時だった。訓練はこれまでの総仕上げといった内容で割と楽にこなせたが、まだ出てきていないところをみるとコウタは手間取っているらしい。実地演習は六時からで、時間には少し余裕がある。部屋で休んでおこうと腰を上げたその時、声をかけられた。
 「やぁ、君が噂の新型君かい?」
 赤を基調にした露出の多い服に、赤い髪、サングラス、右手首には私同様、歯車のようなデザインの大きな腕輪が。間違いなくゴットイーターだ。
 「は、はい」
 そう言ってぺこりとお辞儀をする。新型……ゴットイーターの仲間入りを果たしてからずっと言われ続けてきた言葉だ。神機には遠距離型と近距離型の二タイプがある。遠距離型は銃の形状をしており、オラクルバレットと呼ばれる、高エネルギーの状態に活性化されたオラクル細胞で出来た弾丸を撃ち出すことで、アラガミを攻撃できる。一方近距離型は、剣の形状をしており、オラクル細胞が配列された刃によって敵対するアラガミのオラクル細胞を喰い裂くことで攻撃でき、また柄の部分についた装甲を展開することによってアラガミの攻撃を防ぐことができる。そして、これまではこのニタイプしかなかった神機だが、最近新型と呼ばれる新たなタイプの神機が発明された。前述のニタイプを旧型と言わしめるようになった新型神機は、剣形態と銃形態を任意に切り替えて使用できる可変機構を搭載した神機だ。遠距離型の旧型神機は、射出して減少した神機のオラクル細胞を回収する機能を持たないために、神機の自己修復を待つ間攻撃できないデメリットがある一方、近距離型の旧型神機は刀身パーツによる斬撃でのオラクル細胞の随時回収が可能だが、それを放出することが出来ないデメリットがあり、従来、複数の戦闘が想定される任務では、両者の欠点を補い合うために、近距離型によって回収されたオラクル細胞を遠距離型への補充にあてるという戦法が取られてきた。しかし、新型神機は単独で、剣形態での近接攻撃によるオラクル細胞の回収、銃形態でのオラクル細胞の射出での遠距離攻撃を行えるため、様々な局面で臨機応変に活動できる。だが、いいことづくめのように思われる新型神機にも欠点がある。
 神機とは見た目こそ武器の形をしているものの、実際は人為的に形成されたオラクル細胞であり、本質的にはアラガミと変わらない。ゴットイーター達は体内に投与されたP53偏食因子を媒介とし、腕輪を通じて神機を操るのだが、神機を操作するにはオラクル細胞を人体に深く埋め込んで神経と接続する必要があり、本人の遺伝的体質が該当神機に対して適合していることが必須条件となる。よって、神機を操れる人間は限られてくるわけだが、旧型と比べてより複雑な機構を持つ新型神機は、その分使用者に高い適合率が要求されるため、新型神機使いは旧型よりも圧倒的に数が少ないのだ。まぁ、新型神機は作られ始めてまだ日が浅く、個体数自体が少ないこともあるのだろうが。因みに、体内に埋め込まれたオラクル細胞は、ゴットイーター達の身体能力を大幅に向上させており、これによってゴットイーター達は重く身の丈ほどもある神機を操りアラガミと渡り合う力を授かっている。
 そんなわけで、ただでさえ希少価値の高い新型神機使いであり、かつ新米の私は極東支部の注目の的になってしまっているのだった。せめて支部内に他の新型がいれば多少はマシだったのだが、そんなことはなく、極東支部初の新型神機使いのレッテルは当分剥がれそうにない。地下スラム出身だけあって、一般的なコミュニケーションとは何たるかも分からない私が、好奇の目に耐えられるはずもなく、実はこの五日間は訓練以外の時間はほとんど自室に篭り続けてきた。
 「僕は華麗なる神機使い、エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。君は?」
 「アディルエル=セラトナです。アルルって呼んでください」
 「よろしく、アルル。同じ神機使い、華麗に人類を救う仲間として、これからよろしく頼むよ」
 「よろしくお願いします」
 差し出された手を握り返す。服装や言動は別として、品の良さが感じられる雰囲気をエリック先輩(ひとまず先輩と呼んでおこう)は持っていた。富める者が持つ風格。かなり裕福な方の家系の出であろう。ただ、そういった者達が大抵持っている、弱者への侮蔑の念はエリック先輩からは感じ取れず、私は素直に好感を持てた。言動は別として(二回言った)。
 「さて、僕はこれから用事を済ませなければならないんだが、よかったらデータを交換してくれないかい?」
 「ええ、どうぞ」
 私は右腕を差し出して、同様に差し出されたエリック先輩の腕輪と私の腕輪を合わせた。軽快な電子音がなったのを確認して、腕輪同士を離す。ゴットイーターが着用を義務付けられているこの腕輪は、正式名称は“P53アームドインプラント”と言って、主にP53偏食因子を媒介とした神機に対する神経信号の伝達と、ゴットイーターの神経に接続された神機のオラクル細胞の制御を担っている他、位置情報特定用のビーコン、ターミナル接続用のインターフェース、個々のゴットイーターの情報管理等の様々な機能を持っている。ゴットイーター同士のパーソナルデータの交換もその機能の一つで、エリック先輩とやったのはこれだ。ゴットイーターはターミナルと呼ばれる共通通信端末で、フェンリルの所有するシステムにアクセスでき、支部中枢のサーバー群にアクセスすることで神機のカスタマイズ要請や個人用の倉庫の物品管理などが出来る他、メールのやり取りや通話も出来る。しかし、当然ながらメールや通話は相手の連絡先を持っていなければ利用することは出来ないため、こうしてゴットイーター同士で腕輪を通じて連絡先を交換するわけだ。これで私の私的な連絡先は、コウタとエリック先輩の二人になった。コウタは既に何人もの連絡先を持っているらしいが、全然悔しくない……悔しくなんかない。
 「それじゃ、また会える時を楽しみにしているよ」
 「それでは」
 手を振りながら奥へと歩くエリック先輩に手を振り返し、私は訓練所を後にした。

 時刻は五時五十五分。私はエントランスの一角にある椅子に腰掛けて、私とコウタの所属する第一部隊の隊長、雨宮リンドウを待っていた。エントランスは、依頼を受注できるカウンターと、複数のターミナル、出撃用のゲート等があって、ゴットイーター達のアナグラ内における主な活動場所になっている。勿論、今現在も他のゴットイーター達がめいめい情報交換や出撃準備に励んでいて、私の存在に気が付いた何人かが、期待の新型新人へ好奇の視線を飛ばしている。そろそろ周囲の視線に耐えられなくなった頃、隊長は来た。カウンター横の階段を降りてこちらへ近づいて来る隊長に、カウンターにいるオペレーター担当の竹田ヒバリが話しかけた。
 「あ、リンドウさん!支部長が見かけたら顔を見せに来いと言っていましたよ?」
 「オーケー。見かけなかったことにしといてくれ」
 ヒバリさんにそう言って、隊長は真っ直ぐに私のもとに来た。慌てて立ち上がって、頭を下げる。やや長めの漆黒の髪に黒のシャツを着て、灰色のジャケットとズボンはフェンリルの正式な軍服で上官仕様のもの。基本的にゴットイーターには服装規定が無く、皆各々好きな服を着ているので(私は好きで軍服のジャケットを着ているのだ)、隊長の服装は少し新鮮だった。袖を捲ったたくましい腕には、よく見ると大小様々な傷があって、隊長としての風格を感じた。
 「よう、新入り。俺は雨宮リンドウ。形式上お前の上官にあたる……が、面倒くさい話は省略する」
 隊長は頭を掻いて続けた。
 「とりあえず、とっとと背中を預けられるくらいに育ってくれ、な?」
 私が頷くと、一人の女性が近づいてきた。確か、同じ第一部隊の橘サクヤさんで、今日はコウタの初陣のサポートをするはずだ。黒と緑のドレスっぽい服を着ていて、スタイルが良く、かなりのべっぴんさんである。
 「あ、もしかして新しい人?」
 隊長に話しかけるサクヤさん。コウタを探したが見当たらなかった。遅刻か、あの野郎。
 「あー、今厳しい規律を叩き込んでるんだから、あっち行ってなさい、サクヤ君」
 さっきのヒバリさんとのやり取りといい、この発言といい、隊長は幾分適当なところがあるようだ。
 「了解です、上官殿」
 隊長にそう言ってから私に笑いかけ、サクヤさんは向こうへ行った。うぅ、美人だ。サクヤさんの容姿に憧れ半分、嫉妬半分の私に、隊長は言った。
 「とまぁ、そういうわけで……だ。早速お前には実戦に出てもらうが、今回の初戦の任務には俺が同行する……と、時間だ。そろそろ出発するぞ」
 もう既に三分遅れてますけど……なんてツッコミをしたくなるのを抑えて、私は威勢よく返事をして、出撃ゲートへと向かう隊長の後ろに付いて行った。ゲートを抜けると、神機を受け取るためのデッキに出た。デッキの両壁には似たような装置が十ずつ並んでいて、私はその内の一つに近づいた。装置のモニター下部にある穴のような端末に自分の腕輪を嵌める。するとモニターに私の情報が表示されるとともに足元のハッチが開き、私の神機が出てきた。マニピュレーターによって固定された身の丈ほどもあるそれを受け取ると、ハッチはもとのように閉じた。
 「よし、活動エリアに向かうぞ」
 同じように神機を受け取った隊長に続いて、デッキを出る。支部内を高速で行き来するために作られたリフトに乗って、上下左右に揺られること数分、私達は地上に出た。後ろを見るとアナグラを囲む対アラガミ防御壁がそびえ立っている。どうやら、外周部の壁の外に出てきたらしい。人の世界とアラガミの世界の境界線。それを今、私は越えたのだ。
 「さて、こっからは歩きだ。急いでもろくなこたぁない。ゆっくり行こう」
 神機を肩に担いで歩く隊長の後ろにぴったり付いて行く。今私がいるのは壁の向こう側で、いつアラガミに襲われてもおかしくはない。そして、これから戦うのは本物のアラガミ。初の実戦演習での結果は、今後の私の進退に大きく関わってくるだろう。緊張する私とは対照的に、隊長は鼻歌なんか歌っていた。
 「そうだ、お前の神機、なんて言うんだ?」
 「名前、ですか?」
 会話をしやすいよう、隊長の横に並ぶ。
 「そう、名前」
 神機には固有識別番号の他にそれぞれ名前がつけられている。だが、それに何かしらの意義があるわけではない。
 「“ヴォーヴディベリオン”」
 私は右手に握られたそれを見て言った。紺と黒を基調にしたシンプルなデザインで、その刀身が夕日を反射して茜色に煌めいていた。
 「そうか、中々かっこいい名前だな」
 隊長はそう言って笑うと、神機を持っていない方の片手で器用に煙草に火をつけた。独特な匂いのする白煙が広がっていく。
 「なんで名前なんて聞くのかって顔だな」
 「いっいえ、そんなわけでは……」
 図星をさされて慌てる私に、隊長は続けた。
 「名前ってのはそいつだけのモンだ。それゆえ、大事にするべきものなんだと俺は思う。名前を使うことで何か違ってくるものもあると思うんだよ。親近感とか……な、アディルエル」
 「アルルでいいです」
 「だからまぁ、俺のことも隊長とかリーダー、じゃなくてリンドウって呼んでくれ、アルル」
 「了解しました……リンドウさん」
 リンドウさんは満足そうに頷いて、煙を吐いた。
 「それと、お前の仕事は任務をこなすことだ。結果を残すことじゃない。必要以上に気負うな。泥臭くても、任務をこなしさえすりゃあいい。出来ること以上のことをやろうとする奴は大抵死ぬ。だから、上手いことやろうとか考えないで、落ち着いて訓練通りにやれよ?まぁ、報告書を出すのは俺だし、多少の失敗は目をつぶってやるから」
 「はっ、はい」
 「因みに俺の神機は“ブラッドサージ”って名だ。かっこいいだろ」
 頷いて私は笑った。いつの間にか肩の力は抜けていた。リンドウさんは私の考えていることなど全てお見通しのようだ。
 程なくして目的地についた。かつてアラガミが出現した直後に人々が身を寄せ合っていた都市の一角。立ち並ぶビルはどれもアラガミに喰い荒らされ、虫食いのように穴だらけになっている。ひび割れて肌色の地面が剥き出しになっている舗装道路。人がいた場所とは思えない程の静寂。時折遠くから聞こえてくるアラガミの咆哮が、街全体の薄気味悪さを増していた。
 「ここも随分荒れちまったな」
 人目につかないような場所で立ち止まって、リンドウさんは言った。口に咥えていた煙草を放り投げ、ブーツの底で念入りに踏みつぶして、私の方を向く。
 「おい、新入り。実地演習を始めるぞ」
 「はい」
 「命令は三つ」
 途端に真剣になったリンドウさんの目を見つめ返す。
 「死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良ければ、不意を突いてぶっ殺せ……あ、これじゃ四つか?」
 クスリと笑ってしまう私。
 「ま、とにかく生き延びろ。それさえ守れば、後は万事どうにでもなる。あ〜、それと一応新兵指導教官として、今回の任務の概要説明をしなきゃな」
 リンドウさんは面倒臭そうに続けた。
 「内容はエリアC23に侵入した小型アラガミ“オウガテイル”五体の討伐。目的は旧近距離型神機使いとの共闘の仕方の確認……つってもな、俺も新型神機と組むのはお前が初めてだ。お互い探り探りで戦うことになると思われる。まぁ、万が一の時は俺が守ってやるから安心しろ」
 「はい」
 「それと、お前の神機は刀身はロングブレードに装甲はシールド、銃身はアサルトの複合機でいいんだよな?」
 神機は主に三つのパーツで成る。近接攻撃用の刀身、防御用の装甲、遠距離用の銃身。これらのパーツはそれぞれ特徴別に分けた三つの種類があって、刀身はショート、ロング、バスター、装甲はバックラー、シールド、タワーシールド、銃身はスナイパー、アサルト、ブラストに分かれている。旧近距離型神機は刀身と装甲パーツで成り、旧遠距離型神機は銃身のみで成る。新型神機は三つのパーツ全てを持ち、変形によって、旧近距離型にあたる剣形態と、旧遠距離型にあたる銃形態を自由に行き来することが出来る。各パーツの種類によって戦い方が異なってくるので、相手の神機の構成を知っておくことはかなり重要である。
 「そうです。リンドウさんはロングブレードにシールドですよね?」
 「そうだ。さーて、おっ始めるか」
 私は神機を強く握り込んだ。柄の部分にある球状のコアから一本の細く黒い触手が伸び、右手首の腕輪にある小さな穴に入り込む。
 「っ!」
 針で刺されたような小さな痛みが走り、一瞬の異物感を覚えた後、まるで神機が自分の一部となったかのような感覚になった。これが神機とゴットイーターとの神経接続で、繋ぐ瞬間に感じる特有の違和感と痛みにはどうしても慣れることが出来ずにいる。とはいえ、繋いだ後は同化しているだけあって違和感など全く無く、自分の身の丈より大きな神機が自分の身体を動かすのと同じ要領で簡単に扱えるような気すらしてくるのだ。
 「準備オーケーだな。いくぞ!」
 同じように接続を終えたリンドウさんがそう言って、大通りへと走り始めた。自分より少し大きいその背中を追いかける。程なくして大きな交差点が見えた。そこに集うアラガミ達も。
 オウガテイル。鬼の顔のような巨大な尾を持つ、白と茶の二足歩行の小型アラガミ。恐竜のような外見は、いかにもモンスターという印象受けるので、一般的にも認知度が高い。主に他のアラガミの死骸を捕喰し様々な地域でその数を増やし続けていて、現在では世界でもっとも個体数の多いアラガミとされている。
 「まずは俺が斬り込むから、お前はそれに合わせて突っ込め!」
 「了解!」
 リンドウさんが足を早めた。敵との距離は目算で約十メートル。交差点の中心でアラガミの死体を喰い漁っていた五体の内、一体がこちらの存在に気づき雄叫びをあげた。残りの四体もこちらの方を威嚇する。鋼鉄すらやすやすと貫く鋭い牙に、殺意に満ちた眼。これまでの仮想訓練では幾度となく対峙した相手だが、いざ本物を前にすると圧倒的なプレッシャーに震えてしまいそうだった。歩みを止めてしまいそうになる足を何とか動かして、私はリンドウさんの一メートル後方を走り続けた。
 「はっ!」
 リンドウさんが一番近くにいた一体に斬りかかった。ブラッドサージのチェーンソーのようなフォルムの刃が、オウガテイルの頭部の肉を切り裂き、真っ赤な鮮血が飛び散る。
 「グアァァァ!」
 オウガテイルの尻尾による反撃を、リンドウさんは神機の柄の上部にある装甲を展開して防いだ。次は私の番だ。恐怖と高揚感とが、体内に埋め込まれたオラクル細胞によって強化された身体を衝き動かす。
 「アルル!行け!」
 私はリンドウさんに飛びかかろうとする別のオウガテイルに突っ込んだ。ヴォーヴディベリオンを胸の位置に構え、大きく踏み込んで突進突きを放つ。先端だけ両刃になっている直剣型の刀身は、その刃を三分の一ほど敵の胴体へとめり込ませた。
 「はぁ!」
 間髪入れずに斬撃をもう二三お見舞いする。手応えはちゃんとあったが、勿論この程度で倒れてくれる相手ではない。私を正面に捉えなおし、大きく開かれた口で噛み付いてくる。
 鈍い音がして、オウガテイルは展開したヴォーヴディベリオンの装甲に弾かれた。攻撃を防ぐことに成功したのはいいものの、予想していたよりずっと、一撃が重い。全長二メートル半、高さは私より少し高いくらいのオウガテイルがこのパワーなら、大型のアラガミの力は察するに余りある。まだ衝撃の感触が残る両手で神機の柄を握り直し、隙を突いて再び攻撃を仕掛けた。腕だけではなく、腰の回転や重心の移動も利用して、身体全体で敵を切る。どうやら押し切れそうな雰囲気がしてきたその時、早くも最初の一体を始末したリンドウさんが叫んだ。
 「気をつけろアルル!他の奴から目を離すな!」
 目の前の敵を意識しつつも、視界の端で奥の方からこちらへ走ってくる二体を捉える。同時に三体を相手にするのは厳しいか。攻撃の手を止め、バックステップで距離をとってから、私はヴォーヴディベリオンを銃形態に変形させた。脳からの信号が神経接続によってダイレクトに神機へと伝達され、イメージするだけで勝手に神機が変形する。刀身部分が折りたたまれ、入れ替わるようにして柄の部分に折りたたまれていた銃身パーツが展開し、ヴォーヴディベリオンはシングルバレルの銃へと変わった。銃といってもサイズは剣形態時とそう変わらないので、機関砲といったほうが正確かもしれない。両手でしっかりと柄を握り素早く狙いを定め、私は手元にあるトリガーを引いた。
 破裂音とともに赤い光弾が銃口から吐き出された。高エネルギー状態にあるオラクル細胞で成るオラクルバレットが、オウガテイルへと勢いよく直進し、その鎧のような甲殻に衝突すると同時に炸裂。目標に確実に損傷を与えているのを確認できた。向かってくる三体を足止めするように、正面へ弾丸を撃ちまくる。
 「いい判断だ」
 そう言って、リンドウさんが私の壁になるようにして、私とオウガテイル達の間に位置取り、先程私が深手を負わせた一体に攻撃を仕掛けた。リンドウさんの邪魔にならないよう、残りの二体に的を絞り、なおも弾丸を浴びせ続ける。ちょうど斬撃によって蓄積したオラクル細胞のストックがなくなったところで、大きく迂回してきた一体が私に飛びかかってきたので、剣形態へと神機を変形させカウンター気味に水平斬りをお見舞いしてやった。続けてやってきたもう一体の突進を最小限の動きで回避。二体を同時に相手する。
 防御、攻撃、回避、また攻撃。オウガテイル達の猛攻の合間の僅かな隙に、反撃を叩き込む。意識が、神経が、研ぎ澄まされていく。一瞬でも気を抜けば……死。敵の一挙手一投足の全てを捉え、神機を駆る。
 「グオォォ!」
 一体が少し距離を取り、尻尾に生えた刺を射出してきた。当たったらただでは済まないであろうそれを、すんでのところで身体を捻って躱しつつ、ヴォーヴディベリオンを銃形態に変形、オラクルバレットをお見舞いする。もう一体が突進してきたのを見計らって再び剣形態へと移行、上段からの渾身の斬り下ろしで迎え撃つ。
 「やぁ!」
 力一杯に振り下ろされた紺と黒の刃が、風を切ってオウガテイルの鎧のような頭部の甲殻を喰い裂いた。血飛沫が舞う。勢いそのまま神機を振り抜いて、一刀両断。甲高い悲鳴をあげ、オウガテイルは倒れて動かなくなった。殺った。
 「まだまだ!」
 息も整える間もなく、私は先程距離を取った一体の方へと走った。ヴォーヴディベリオンを腰の右あたりに構え、大きく一歩を踏み込む。踏み込んだ足を軸に踏ん張りをきかせ、地面と水平にぶん回す。私の横薙ぎと、オウガテイルの尻尾による薙ぎ払いが高速でかちあい、耳をつんざくような音とともに火花が散った。体勢を立て直し睨み合う両者。
 先に動いたのはオウガテイルの方だった。鋭利な歯がズラリと並んだ口が、私を肉塊にせんと迫ってくる。あと数センチのところで私はそれを横に避け、カウンター気味にヴォーヴディベリオンをオウガテイルの胴へと突き立てた。悲鳴をあげるオウガテイルに、左の手の平で柄を押すようにしてさらに刃を喰い込ませる。一瞬身を震わせた後、オウガテイルは力なく倒れた。
 リンドウさんの方を振り返ると、ちょうど二体目のオウガテイルを倒し、最後の一体と対峙しているところだった。ヴォーヴディベリオンを構えなおし、援護に向かう。装甲で敵の攻撃を防ぐリンドウさんの後ろまで辿り着いた時、そのままスピードを落とさずに私は言った。
 「行きます!」
 足にめいいっぱいの力を込めて跳躍。オラクル細胞によって強化された脚力は、約二メートルの高さまで私の身体を運んだ。私はリンドウさんの頭上を飛び越え、その先でこちらを見上げるオウガテイルに落下しながら神機を振り下ろした。
 「やれ!アルル!」
 太刀筋をなぞるように真っ赤な血が吹き出したが、決定打とはなり得なかった。怯むオウガテイルに着地と同時に再度斬りかかる。袈裟斬りからの横薙ぎ。柄を握る手の平に意識を集中させ、一撃一撃正確に、最速で振り抜く。
 「はぁぁぁぁぁ!」
 私はオウガテイルの口に突きを繰り出した。足を踏み出すと同時に腰を回転させ、寸分の迷いもなく神機を持った右腕を突き出す。全身の全ての力を余すところなく乗せた突きは、オウガテイルの体躯を貫いた。
 「はぁ、はぁ……やった」
 オウガテイルが動かなくなったのを確認してから、私はヴォーヴディベリオンを引き抜き、膝を屈めた。緊張で強ばっていた筋肉が急に弛緩し、身体がふらついて倒れそうになる。
 「よくやった、アルル。だがまだ任務は完了してないぞ。コアを回収しろ」
 「了解」
 リンドウさんが私の肩をポンと叩いて言った。その大きな手を支えに、私は屈めていた身体を起こし、倒れて動かなくなったオウガテイル達のもとに向かった。アラガミは一体につきひとつのオラクルCNS、通称コアと呼ばれるアラガミを構成するオラクル細胞を制御する司令細胞群を持っており、これを破壊するとアラガミのオラクル細胞は霧散する。霧散したオラクル細胞はやがて再集合して新たなアラガミを構成するために地球上からアラガミを駆逐するのは不可能と言われているが、アラガミの脅威を一時的にでもしのぐことは出来るのでゴットイーター達は命がけでアラガミと戦っているのだ。このコアは加工して神機の中枢パーツに利用したり、各種兵装の生産に利用したり出来るので産業的価値は非常に高く、アラガミからのコアの摘出はゴットイーターの重要な任務の一つである。私は一体のオウガテイルの前で神機を構えた。
 神経接続を通じてヴォーヴディベリオンが私の要求に応え、黒い野獣の頭部のような形に変形した。これは捕食形態と呼ばれるもので、アラガミを見た目の通り”喰らう”ことに特化した形態であり、動かなくなったアラガミからコアや各種の細胞などを回収するために基本的に使用される。ヴォーヴディベリオンが大きく口を開き、オウガテイルにかぶりついた。オウガテイルの体躯を貪るように喰らった後、神機は元の姿に戻った。神経接続を介して神機から伝わってくる情報でコアの回収を確認し、次の死体へと向かう。
 全てのオウガテイルからコアを回収し終え、死体が霧散したのを確認して、私はほっと一息をついた。誇らしげに刀身を陽の光に輝かせるヴォーヴディベリオンから神経接続を解除する。腕輪に伸びていた触手がスルスルと神機のコアへと戻っていく。
 「おつかれさん。初めてにしちゃ上出来だ」
 「ありがとうございます」
 私はリンドウさんの方に向き直り姿勢を正した。頬に付着した返り血を袖で拭う。
 「全体的に戦い方が荒っぽい印象があったが、まぁ大丈夫だろ。そんじゃ、帰るぞ」
 「はい」
 煙草をふかして歩くリンドウさんの横に並んで、アナグラへと戻る道を往く。まだ戦闘時の生々しい感覚が残っている手を強く握りしめ、私はやっと自分の今を実感した気がした。荒れ果てた街を一陣の風が吹き抜ける。
 死と隣合わせになったのは久しぶりだった。一瞬の気の緩みが死に繋がるような瞬間。地下スラムにいた頃には直面することが少なくはなかったそんな瞬間にいつも感じていた恐怖と高揚が、本物のアラガミとの戦闘でまざまざと蘇った。今なら分かる。地下スラムと比べれば大して複雑な構造になっているとは言えないアナグラの地図を、どうやっても覚えられなかった理由が。私は安心していたのだ。着るものがあって、食べるものがあって、寝るところがある生活に。ゴットイーターという特権階級に。そして今日、はっきりと自覚した。ゴットイーターは命のやり取りの対価に生活を得ているのだと。生きるために戦うのだと。生きるのに必死にならなきゃいけないのは今も同じなのだと。必要なんだ。生きる意思が。生きようとする意思が。あの頃のように。
 「アルル」
 リンドウさんが煙を吐き出して言った。
 「最後にもう一度言っておくぞ。絶対に死ぬな。これは命令だからな」
 「はい」
 私の威勢のいい返事にリンドウさんは納得したように笑って、短くなった煙草を放り投げた。私は固い決意を胸にその横を歩いていった。


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