朝起きると、股間に唐揚げが生えていた。
意味が分からない。しかも唐揚げが発生した代わりに俺のアンチマテリアルライフルがどこかに消えた。
…小説というものは描写さえしなければ登場人物の外見を把握できないのが素晴らしい。アンチマテリアルライフルなんて大層な名前を付けておけば俺が実は短小包茎であることなどバレはしない。っておいコラ作者の野郎俺の心の声まで描写するんじゃねえよそういうのは恋愛小説だけで十分だ畜生どうせ俺は包茎で早漏。ふふふ君には候と早漏をかけたこの高度なギャグは理解できないのだろうな。
そんなことはどうでもいい。俺はこんな展開の小説を読んだことがある。確かアレは主人公が毒虫になる話だったな。なんだ、それと比べれば俺はポークビッツが唐揚げに変わっただけ。会話もできるし嗜好もできる。普通に生活してりゃバレはしない。なんだそんなにたいしたことじゃねえな。だいいち俺ひきこもりだしな。
社会不適合者特有の妙なポジティヴシンキングが始まる。俺はとたんに元気になる。しかしいつもは俺と健やかな時も病める時も感情を共有してきたマイサンの元気はない。
息子よ、おまえはどこへ行ってしまったのか。これは家出なのか?仕方ないよな、おまえを一度も表舞台で起たせてやれなかったような童貞だもんな俺は。愛想を尽かされて当然さ。
考えてみれば俺は息子に対して過保護すぎた。皮でも保護してたしな。いろんな意味で手を出し過ぎてもいた。お前の都合なんか無視して、俺はお前にべたべたかまっていたよな。あれは結局自分を慰めていただけだったんだ。子供のことを全く考えていなかった。父親失格だよ俺は。
シューベルトの「魔王」が脳内に響く。あの父親も、息子が魔王に襲われていることを信じやしなかった。その結果息子は死ぬ。おとうさんおとうさん、息子は叫ぶ。彼は自分に対する父親の仕打ちにどう思ったのだろうか?
いくらタートルネックで背が低くてそのくせ敏感で傷つきやすく涙もろくたって、やはり息子は俺の息子だった。俺は祈る。誰でもいい、返してくれ、そんなもん何の役にも立ちはしないだろう?
しかし俺の股間に変化はない。
俺がこうして嘆願してもカミサマは何もしちゃあくれない。俺は項垂れる。唐揚げが視界に入る。ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。唐揚げに対する俺の怒りが募る。こんなもの!食べてやる!
俺は自分の股間にかぶりついた。しかし唐揚げは取れない。どうやら下半身と癒着しているようだ。中に息子がいるかもしれない、そう手荒な真似は出来ない。俺は唐揚げを舐めて舐めて舐めまわした。
それは予想に反して不味かった。ただ揚げるだけなのにどうやったらこんな味になるのか。というかイカ臭い。唐揚げのパリパリとした衣はどこへ行った。これじゃあただの男性器を舐めているのと変わりゃしない……男性器!?
俺は一旦食事を中断し、背筋を伸ばす。下を見る。そこには唐揚げの姿はなく、小さいながらも悠然とそそり立つマイサンの姿があった。
何がどうなってこうなったのか、そんなこと俺が分かるはずもない、ただ言えるのは、俺が息子への愛を取り戻し、そして息子は無事帰ってきたってことだけだ。いいじゃないか、それだけで。他に何が必要だというんだ?
俺は決意する。これからもこいつと二人で生きていくと。同性愛やら対物性愛が認められているこのご時世、自分の体の一部を愛したって別に問題はないはずさ。
ただの線が絵に、ただの音符が曲に変わるように、俺はただの上下運動を素晴らしい人生に変身させていこう。
まだ俺たちは性春の1ページ、いやティッシュ1枚目すらも消費していない。まだ人生は始まったばかりさ。
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