時は西暦30XX年。人類の環境破壊によって大半の生物が絶滅していた。
生き残った生物は人類と鳥類のみ。ホ乳類よりも優れている鳥類の肺は、二酸化炭素濃度の高くなった大気からも効率よく酸素を吸収できたが、鳥本来の"飛ぶ"という能力は失われてしまった。
これは、人類と鳥類の生き残りをかけたソウゼツな戦いの物語である。
人類は日々唯一の食料源である鳥をクローン技術で増やし続けていた。このころ帯化していた鳥の羽は、手になっていた。
「毎日毎日僕らは油の〜中で揚げられてヤになっちゃうな〜」
国立鳥類調理法研究所教授の中島咲月は、その夜クジャクがこんな歌を歌っている夢を見た。見覚えのあるクジャクだった。
咲月にとってあのクジャクは忘れられないものだった。小さい頃から一緒にすごし、家族だった。咲月にとって、強く美しいあのクジャクはまさに理想のヒロインであった。
ある日学校から帰ると、"エマ"と名付けたそのクジャクがいなくなっていた。母に尋ねると、今日の晩ご飯にするために殺したことを告げられた。いつかこの日が来るのは分かっていたが、あまりにも唐突だった。
——エマのからあげは食べられなかった——
——退化して手になったエマの美しい手は一生忘れない——
夢の生々しさに、咲月ははね起きた。額に油汗が浮かび、鏡に写った自分の顔は、少しひきつっていた。
同じ夜、咲月と同じことが全人類に起こった。幼い頃の心の痛みを思い出した人類は次の日から鳥を恐れ鳥を食べられなくなった。
死んだ。
人も、鳥も——。
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