ぼくはゆりがすきです
ぼくはあぬすもすきです
だからふたつがいっしょになったゆりあぬすがとってもだい好きです
パパもママもだい好きだけど
ゆりあぬすがせかいで一ばん大好きです
そうは言ってもふるさとが一番心が安らぎます
齢18にしてあの村を飛び出し、はや35年
思い返せば色々なことがあった
あの頃が一番やんちゃした時期だった
男手一人で育ててくれた親父の言葉もロクに聞かず、東京に出るとだけ言って、着の身着のままで飛び出した
親父はただただ俺の背中を見送ってくれた
東京に出てからはまず、職を探しさまよった
当然田舎からパッとでてきた自分に、都合よく職が見つかるわけもなく、代々木公園で寝泊まりしていた
やっと見つけた職も給金はよくなかった
だがそこしかあてのなかった俺はクビにならないように必死で働いた
ある日店長が安アパートを紹介してくれた
早速そこに転居した
ボロアパートだったが、住むことには申し分なかった
その部屋が自分のものになって、まず最初に大の字になって寝たことをよく思い出すよ
それからというものは店長への恩返しも兼ねて、その店で働き続けた
そこは小さな居酒屋で客こそは少ないが、活気だけはすこぶるあった
店長も気前がよいと評判で、店の中は常連客がほとんどだった
最初はただの店員だったが、次第に顔見知りになり、飲み比べもした
やりがいのある仕事だった
そんな風に生活しはじめてから三年がたった
公園で寝泊まりしてたのがウソのようだった
ふと自分は親父に手紙を出したくなった
そもそもこちらの住所も教えていなかったのでちょうどいい機会だった
早速絵ハガキを買い、ただ一言
俺なりに生きている
と書いたのを覚えている
それを出勤前にポストに投函した
数ヶ月後、仕事場に向かうとドアが閉まっていた
いつもなら店長がカギを開けて下準備を始めている時間帯ではあるのに、その日に限って開いてなかった
首を傾げていると常連客の一人が、俺を見つけるやいなや驚いた顔をして小走りで近寄ってきた
その人は黙って俺の手を引いて電気屋の前まで連れていった
そこには夕方のニュースをテレビがしゃべっていた
『今日、午後1時ごろ新宿区に住む自営業の霧元啓容疑者を、少女に性的暴行を加えたとして現行犯逮捕しました。霧元容疑者はここ一連の小学生暴行事件に関与して——』
テレビに店長が写しだされていた
何も考えられなかった
それからというもの、俺は何もやる気が起きなかった
ただただボーっとした日々を過ごしていた
そんなある日一つの荷物が届いた
親父からだった
段ボールを開けるとまず手紙が入っていた
そこにはたしかに親父の文字でこうかかれてあった
『元気そうでなにより
お前が昔好きだったユリアヌスを送ります
がんばれよ、応援してる』
声を上げて泣いた
嬉しくて嬉しくて言葉にならなかった
ただ泣くことしかできなかった
それが親父の最後の手紙となった
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