かつて、典雅は町一番の変態だった。しかし、自慰心が強く、ただの性玩具社員という身分に満足しきれなかった。
 彼は会社に辞表を出し、痴人として名を成そうとした。しかし、所詮は井の中の蛙、白濁としたオタマジャクシの放流という、男であれば誰しも行う事が出来る手淫を主として行っていた彼は、世間の変態の深さに圧倒された。
 変態の世界では、少なくとも尻にペプシコーラを挿入した状態で72時間寝ずに手慰みを続けて初めてその入口に立った状態だという。彼は、それは入口どころか開発まで行っているではないか、俺だって入口で勃ってはいるんだぞと文句をたれながら、町のいち男優としての屈辱的な生活を強いられることとなった。
 自慰心の強い彼にとって、このような生活は耐えられないものであることは明白であった。彼は隣町の娼館に出張した際に発狂し、そのまま山へと消え、行方知れずとなってしまった。
 
 翌年、彼の数少ない友人で、現在は玩具店の社長とて名を馳せていた盟紀が、蒟蒻と片栗粉ではちきれんばかりの風呂敷を背負いながら山を越えようとしていた時のことである。突然、物陰から何ものかの声が聞えてきた。
 この山は、暴漢が現れるという事で有名であった。若い女だけではなく尼僧や青年までもが餌食になっていることを考えると、彼もその獲物の範疇に入っていたとしてもおかしくはない。盟紀は背中の蒟蒻を取り出し、いざとなればこれでその精気すべて抜きとってくれる、と意気込んだ。
 ところが、そのあと暴漢が襲ってくることはなかった。
 代わりに聞こえてきたのは、かつての親友、典雅の声であった。
「人違いかもしれぬが、おまえはもしや典雅ではないか」
「すると、おまえは盟紀か」
ふたりは再会を喜んだ。
「なあ盟紀よ、近日噂となっている暴漢とはお前のことか」正体が旧友だと知って警戒心を解いたのであろう、盟紀は声のする方に近付いて行ったが、
「来るな」という典雅の声で立ち止まった。
「何故だ、おまえと俺の仲ではないか」
「だからこそ、なのだ」「俺には今、おまえに顔を合わせられない訳がある」
 そうして典雅は語りだした。

 典雅は、発狂して訳が分からぬまま山にこもるようになり、気がつくと自分の身体が魔羅と成り果てていることに気付いた。人間の体に戻るときもあったが、それは人が山を通る時であり、身体は人間でも理性は魔羅となり、ただただ通行人を襲い続けた。
 「俺は変態ではなく性犯罪者となってしまった」典雅は自嘲するかのように呟いた。
 「今は理由は分からないが、魔羅の身体でありながら人の理性を保てている。そこで君に頼みがある。俺が山籠りで考え出した性玩具・女掘を世間に流通させてほしいのだ。いくら魔羅と成り果てた身とはいえ、未だ名をはせるという夢はついえていない。俺は故郷が懐かしいのだ。馬鹿の一つ覚えのように変態行為を行っていたあの日々が。そして、その日々をこの女掘によって世間に知らしめてやりたいのだ」盟紀は快諾した。
 彼の口から紡がれる女掘の姿は、まさに自慰の世界を変えるような傑作であった。話を聞いているうちに、盟紀は自分の下半身が涙を流していることに気づいた。典雅の作品は、無意識に人を興奮させる、そんな力を持っていた。
 全てを語り終えると、彼は絶頂の声を山に響かせ、山全体に白い雨を降らせると、どこかへと昇天してしまった。

 その後、彼の姿を見た者はいない。
 作者不明の玩具「典雅」が世に知れ渡るのは、それから少し後の話である。
 


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