日本出身の同僚がすれ違ってきた。
「そういや聞いたぜ。お前無事に帰ることが出来るらしいな。今世界中がお前の帰りで湧いているぜ。羨ましいな。」
「ああ。僕も退職さ。後2、3分でさよならだ。というか君ももうすぐだろ。帰れるんじゃないの。」
「いやいや。それは無理だ。うちの国の精密さは世界でもトップクラスだから。」
「なるほど。確かに。」
僕らの仕事は故郷を見守ることだ。けれども故郷の人々は僕らの出発は喜んでいたが、帰りを待っていない。彼らは全力で僕らの帰還を失敗させる。
「俺ももう一度あの空気を味わいたかったぜ。そんじゃあな。」
「おう。さよなら。」
彼はすれ違って行った。
体が火照ってきた。そろそろ時間だ。僕は本当に帰ることが出来るのだろうか。あの何日も、いや何年もただ眺めていた故郷に。
海が見えてきた。よかった。人に当たらなさそうだ。
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