朝焼けの光よりも燃え上がるような紅色をした刀身が日光を反射する。
霜月のヒーリングにより傷口は塞がったがまた攻撃を喰らえばひとたまりもないだろう。
右のほうで激しい震音が聞こえた。竜潜がゴリラのような化け物と格闘戦を繰り広げているはずだ。
左のほうで目映い魔法光が迸った。霜月が魔術師の女と戦っているのだろう。
仲間達が戦ってくれているからは目の前の敵と戦える。すぐ後ろには神楽がついている。
「で、僕の相手はどちらがしてくださるんですか?」
雪待が不敵な笑みを浮かべてレイピアと日本刀を両手にぶら下げていたかと思うと、無造作に日本刀をこちらにめがけて投げ捨てた。
投げ捨てられただけに見えた日本刀は切っ先をまっすぐに天正に向けて加速しながら空を切りながら迫ってきた。
しかしその刃は天正に届く前に弾き飛ばされた。
「私に決まっているじゃないですか」
静かに、だが怒気を含んだ声で神楽が薙刀の先を雪待に向けた。雪待は唇の端を吊り上げた。
「そうですか、ならさっさと終わらせさせてもらいますよ!」
雪待のレイピアと神楽の薙刀が絶妙に交差した。空間にひびが入るかのような魔力の衝突を感じた。
「い、行ってください天正さん!」
少しだけ振り向いた神楽に天正は頷き、二人の横を走り抜けて湖底の奥にいるローブ姿の奴のもとに走っていった。
「ほぉう、やはり貴様が我が相手をするか。手負いの貴様がどこまでやれるか見物だな」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに天正はグロックを抜き、奴をめがけて撃射する。ローブがあおられて奴の顔が明らかになる。
二弾ずつ撃たれた合計十発の弾は全て奴の目の前で何かにさえぎられるようにして空中に静止して地面に落ちた。全て外れだったということだ。
「なるほど、わざわざそんな銃を使ってくるのにはそんな理由があったか」
空中に静止した弾の色はそれぞれ違っていた。純銀、亜鉛、塩、動物の牙など材料がそれぞれに異なっているからだ。
弾倉を手早く抜いて次のに入れ替えるとすぐに全弾を撃ちきるが、またしても全て止められてしまう。
「まだあったのか、そんなことをしても無駄だとわからんのか」
奴は天正のその行為の目的に気づいていた。天正は様々な種類の銃弾を撃つことで、相手の魔術特性や系統を見抜こうとしていた。例えば銀が効けば吸血鬼の可能性があるなどと判断できる。
だが、そのどれにもあたりはなかった。奴はやはり一筋縄でいくような相手ではないようだ。
金属部分と強化プラスチックのそれぞれに魔法陣や術式を組み込むことで対魔力性などを向上させたその銃はゴーストハンターとして天正が愛用してきたものだった。残る一つのマガジンを装填する。
「ん?」
のんきに待っているだけの奴の顔色が少し変わった。というのもまずは同じ弾五弾を一点を狙わずにあちこちに天正が撃ったからだ。続いて四弾を地面に向けて撃った。
「貴様、何をするつもりだ」
奴が止めた五発は正五角形の頂点に位置し、地面の四発は正方形を描いていた。補正された銃だからこそできる芸当だ。
「四針結界!」
地面の四発が魔力により結ばれ鉛直に不可視の壁を作り、奴を囲む。
「聖星方陣!」
普通は壁などに打ち込んで使う術だが今回は奴が直に止めていたのであっというまに五弾が奴の動きを包囲陣によって止める。これで奴は身動きが取れないはずだ、身体的にも魔術的にも。
残る一発は純粋に威力が強化し、敵の内部で魔力により火薬が爆発的に爆発する弾だ。奴の胸に向かって弾は飛んでいき炸裂した。
爆音とともに、粉塵と煙が立ち込める。これで少なくともダメージは与えられたはず—
「貴様を少々侮りすぎていたようだな」
「な・・・んだと・・?」
奴は煙の中から無傷で出てきた。
「我はガイナ・ロスト、リーダーのガイナだ。本気で相手させてもらおう」
視界からガイナというそいつは消えた。殺気を感じた天正は本能的に地面に転がった。
今いた場所の後ろから切り裂くような風の刃が地面を抉った。避けていなければ確実に死んでいただろう。
「避けたか」
つまらないといったような言い草でガイナは振り返った天正の前に立っていた。別格なまでに速いし、強いことは分かった。
といっても引き下がるわけにはいかない。天正は紅火を抜いた。
一瞬で距離をつめられ視界いっぱいにガイナのローブがはためいた。とっさに紅火を前に構えるととてつもない衝撃が天正を襲った。
「くっ・・・!」
はじきとばされるようにして天正は後方に追いやられた。このままでは防戦の一方だ。
—力を解放しなくては・・・
スタングレネード、スモークグレネードを同時に投げつけると閃光と白煙が一面を覆った。
「何の真似だ」
当然効くはずもなく一瞬にして空気は晴れ渡される。それでも天正には十分な時間だった。
「オーバーアクティブリロード」
一瞬で自分に対して術式を編んだ天正の五感は通常よりも何十倍にも冴え渡り、身体能力は限界まで引き出された。身体に大量の負担を強いるこのドーピングのような術は天正の体でもって十分というところだ。
「小賢しいわっ」
ガイナがまたも視界から消えたが天正の目は宙を超スピードで駆け抜けるガイナを捉えていた。右から回り込もうとしてくる。風と冷気を纏わせたしなるような右腕に紅火をぶつける。
今度は押し切られず対等にぶつかり合う。真紅の刃と冷気を纏った手刀が周囲に突風を巻き起こす。
「ほう、少しは強化されているようだな」
下から突き上げるようにガイナは左拳を繰り出してきた。防ぐ術がない天正はバックステップで避けると、無数の氷の刃が追い討ちをかけてきた。
—まずい!
その時だった。どこからか声が聞こえた気がした。無意識に天正は紅火を回転させるように一閃した。
炎が吹き荒れ全ての氷の刃を溶かしつくした。
「なんだ、その刀は?!」
—この炎がこの”紅火”の力なのか?
紅火は答えるように刀身にほのかに炎を宿らせた。刀全体の赤い線は輝き、脈打っているようにも見えた。
右斜め下に切っ先を向けて次の一撃に向けて構える。
ガイナは体の二倍はあろうかという凍てつくような氷の大剣を両手に生やし交差させるようにして飛びながら襲い掛かってきた。戸惑ったがゆえの血迷った正面攻撃。
—いける。
力の使い方は全て刀が教えてくれるかのように理解していた。
「紅炎、爆炎斬!!」
右下から左上へと切り上げるとガイナの左腕の氷剣は砕け散った。続いての右腕からの氷剣は切り上げたそのまま真上から一刀両断するように振り下ろすと爆発のように燃え上がる炎によって消し飛んだ。
二人のいた場所は黒煙に覆われた。
—やったか・・・?
少しして黒煙が消えると天正の前には巨大な氷の塊が鎮座していた。どうやらこれでガイナは身を守ったようだ。すーっと融けるようにして中からガイナが現れた。
「驚いた。少しでも遅れていたら我といえども危なかったかもしれんな。だが、その刀の力ももう使えないのだろう?」
これほどの攻撃を受けても無傷とは恐ろしい奴だ。天正自身のドーピングが切れて紅火の炎も消え、元の紅の刀身に戻った。使用者の魔力を使っているのかもしれない。
形勢逆転したかのように見えた状況は結局後戻りしてしまったことになる。天正は紅火の柄を握り締めた。
「おおおおおぉぉぉぉっ!」
天正は全力で走り、刀を振りかざしてガイナに迫るがあと少しのところで見えない空気に阻まれて刃はそれ以上動かせなくなった。
「無駄だ」
ガイナの拳が腹にめり込み、天正は意識を失いそうになりながら突き飛ばされた。
「うっ!・・・」
五メートル以上飛ばされ、地面に手をついて呻く天正をガイナは冷徹な目で見る。
天正のすぐ横に純白と赤の布がはためいた。
「天正さん!大丈夫ですか!?」
ガイナとは反対の方向を向いて神楽が叫んだ。その先にいるのはもちろん雪待だ。どうやらいつの間にか戦場が近づいていたようだ。
「ああ、まだなんとか生きてるよ」
立ち上がると天正と神楽は背中合わせになってお互いの敵と対峙した。挟み撃ちにされているような構図だ。
「なかなか、しぶといですね」
雪待の言葉通りなら神楽は健闘していたようだ。天正はガイナを任されたのに無残にも負けそうになっている自分を恥じた。
にらみ合いが続く中、神楽が敵に聞こえないような小さな声で天正に語りかけた。
「一つだけこの状況を打開することが出来るかもしれない作戦があります」
「あの作戦か・・・」
もしも敵の戦力がこちらよりも桁違いに高かったときのために神楽たちは一つだけ作戦を用意していた。成功する可能性も低くその後も上手くいく保証のないその作戦はすぐに天正たちの中で不確定要素の多さから却下されていた。
「雪待さんもあの作戦の話を一応聞いていたはずです。悟られる前に決めなければおそらく対策をうたれます」
「チャンスは一回ってことか・・・」
「そうです。だけどもしやらないまま戦い続けてもこのままでは恐らく・・・」
神楽の言わんとすることは容易に理解できた。天正はもちろん他の仲間達も魔力も体力もこの一ヶ月のなかでかなり消耗していたため戦いが長期化すればするほど不利になっていく。
敗北の二文字が頭の中を踊った。
「やってみるしかないか・・・」
果たして今の自分に作戦そのものすらを成功できるかもわからないがやるしかない。
「あともう一つ言い忘れていたというか、言ってなかったことがあります」
「うん?」
「紅火の炎を解放できたあなたになら、きっと形状変化も可能だと思います」
「形状変化?」
天正は握り締めた紅火の温かみを感じた。
「強く願えばその刀・・・いえ武器は使用者の使いやすい形になるはずです」
十分使いやすいと思ったがこれ以上使いやすくなるのだろうかと思った。とにもかくもとりあえず力を貸してくれと言わんばかりに天正は握る力を強めた。
ぐにゃり。そんな擬態語が似合いそうなぐらいに紅火はその原型を歪ませて圧縮されるようにして縮んでいく。
「なんだそれは・・・?」
紅火のまだ見知れぬ潜在的な力を恐れてか攻撃せずににらみ合いを続けてきたガイナが疑問を口にする。天正には紅火が何に形を変えようとしているのかがすぐにわかった。
「確かにこれならいけるかもしれない」
「はい」
背後の後ろの神楽が微笑んだような気がした。
「では、私の結界術式で二人を少しだけ引きつけます、その間に・・・」
「了解した」
神楽が半歩ぐらい足を踏み出すような音がした。敵にも緊張が走る。
「茅輪改!」
神楽と天正の周りに大量の神符が華麗に舞う。一つ一つが絡まりあいだんだんと大きな輪を形作るようにして二人を取り囲む。
信じられないほどに空間が清浄化されていく。神道の本領を発揮しているのが肌に感じられる。
「祓え!」
注連縄のようになっていた符が瞬く間に雪待とガイナに向かって吹雪のように襲い掛かった。
「今です!」
その中にまぎれるようにして天正はガイナに詰め寄っていく。
圧倒的な退魔の力を凌駕しようとして風雪魔法を放つガイナの目の前に吹雪を抜けるようにして天正は現れた。ガイナの目が大きく見開かれる。
右手に握った紅火の先にをガイナの額に向ける。紅火の形は拳銃の形へと変化していた。引き金を引くと真っ赤な炎が吹き出るようにしてガイナに向かう。
一筋の炎と風がぶつかり合うと炎が両者の間に壁のように広がる。その間に流れるような動作で紅火を刀の形に戻し、突きを繰り出す。
ガイナの身体に刺さった感触がしたがすぐに止まる。
「ぐっ・・・」
氷で硬化した手でガイナは刃を無理矢理留めていた。わずかだが刀身に血が流れる。
ひるんだその隙が最初で最後のチャンスだった。天正は紅火から右手を離し神楽から渡された護符をガイナに押し付けた。
光が迸った。後ろから声が上がった、雪待だ。
「まさか!?」
溢れんばかりの光がガイナからこぼれ湖底を包み込む。
「ぐわあああぁぁぁっっ!!」
ガイナが苦痛に叫びをあげる。呆然とする雪待をよそに神楽がこちらに走り寄ってきた。何も言わずにお互い頷いた。
貼った護符は魔物を封印するのではなく、封印そのものを解除する護符だ。こうして効果があったということはやはり・・・
「やはり、あの人自身が封印そのものを担っていたんですね」
ー俺達は賭けに勝利した
粒子状の正体不明なカラフルな光の渦から人の形をした人ならざる者が現れる。
神楽が地面に立膝をついて頭を垂れる。
「神楽、使命を果たしてくれてありがとう。そこの四剣の使い手もご苦労」
地面より少し高いところを浮遊する神の姿は少年とも少女ともとれる幼い姿をしていたがそこから滲み出るオーラには威厳が備わっていた。
「さて、」
崩れ落ちるようにして倒れていたガイナがゆっくりと立ち上がる。
「封印を解かれるとはな・・・」
雪待が走り寄ってその肩を支える。
「よくもやってくれたねガイナ」
神が怒りを口にする。両眼が赤く輝く。
「我ごときに封じられた低級神め、この借りはまた返してもらうぞ」
「言っておけ。お前はこの勇敢なる者らに敗れたのだ」
いつの間にかガイナの横に来ていたゴリラもどきと魔女や雪待をガイナがローブを翻して覆い隠すと全員が消えていた。空間移動だ。
「逃がしてよかったんですか?」
神楽がたずねる。
「構わないよ、そのうちきっちりとこっちも借りを返すさ」
霜月と竜潜もやってきた。四人集まったところで神は四人を見渡した。いつの間にか日は天頂近くまで昇っていた。
「みんな、改めて本当にありがとう」
四人とも満身創痍といった感じで座り込むと、神は手を軽く横に振った。
淡い光が傷を癒していく。
「すごいっ・・・」
回復役だった霜月が感嘆する。
「こんくらいじゃお礼したりないぐらいだよ」
「「いえいえ」」
声が重なる。
「すまないけど・・・」
神がそう切り出す。
「もうこの世界は元に戻せない」
神は話し始めた。
ガイナ・ロストによって交差させられた四つの世界はこの十一月の間に絡まりあってしまった。
この世界はこの世界として一つの世界となってしまうらしい。もっとも違和感を人々が抱くことがないようにはするらしいが。
自分の不注意のせいだ、と神は嘆いていた。
「もう一つお願いというか誘いがあるんだ」
「「?」」
「雪待くんを取り戻したくないか?」
「えっ?」
おのおのに疑問が生まれた。どういう意味だろう。
「あいつは俺達を裏切ったんですよ・・・?」
「そうか、ガイナのしたことにも気づけないようにされていたのか」
神は澄んだ青色の眼で天正に眼を合わせた。
「雪待くんは本当に敵なのかい?君の記憶はそんなもんなのかい」
天正は視線が吸い込まれるような錯覚を覚えた。記憶がフラッシュバックしてくる。
ギルドで雪待にあったときに雪待に記憶を改ざんされて雪待という存在を刷り込まれたはずだ。
「そうだね、その時におそらく君は”雪待”に記憶を改ざんされたんだろう、でもそれだけかな?」
神がパチンと指を鳴らすと四人は神社の前にいた。遠くで湖が元に戻っているのが見えた。神業だ。
「ギルドに確認するかい?もうこの町と外との境界は元通りだ」
神社の前にギルドの受付係があらわれた。ギルドから直行してきたのだろう。
「天正さん大丈夫ですか!?一体何が・・・」
せきたてるように質問攻めにしてくる受付係を抑えると一つ尋ねた。
「雪待って知ってる?」
不思議そうな顔をされた。
「最強コンビの相棒が何言ってるんですか、春待さんの名前を間違うなんて。わざとですか?それとも何かあったんですか」
春待・・・その名前を聞くと脳内が揺さぶられ激痛が走った。
「あああああ・・・ああああぁぁっっ!!」
「ガイナの洗脳が解けたようだね」
ギルドには後で報告に行くからと言って受付係には帰ってもらうと、天正は心を落ちつかせようとした。
「天正さん?」
神楽が心配そうにしている。
「雪待・・・じゃなくて春待は俺とコンビを組んでた。たぶん三年前にあいつが海外に行った時に何かあってガイナに洗脳されたんだろう。そしてスノウとしてガイナとともに神を封印した」
神は頷いた。
「じゃああいつも被害者ってことね?」
霜月が問いかける。
「そうだろうな。そして雪待となって俺らを洗脳して・・・うん?」
「気づいたかい」
神は微笑んだ。
「あいつは・・・どうして俺達の味方のふりをしてまでガイナの元に向かわせたんだ?すぐに俺らを殺せばよかったはずなのに」
「それが君達を生かしておく条件だったのさ」
神は春待はこの町に来た段階では洗脳まではされていなかったと言う。
「君達がガイナ・ロストの邪魔にならないようにスパイとして送り込まれていたんだ、だけど成り行きでガイナの居場所を見つけてしまった君達の中にいた彼をガイナは裏切りとみなしあらかじめ用意していた使役魔法で彼をスノウという殺人鬼に変えた」
あの横向きのドクロはガイナの生み出した極悪非道の使役魔法だったらしい。
「あいつは、あいつはこの一ヶ月俺らといながら一人で戦ってきたってことですか・・・?」
神さまは涙を流す天正を慈悲に満ちた目で見つめた。
「そうだよ」
「くそおおぉぉっっ!!くそおぉっ!!くそっ!くそっ!俺が、俺がもっと早くきづいていればっ!」
地面叩く天正の背中をを神楽がさする。
「悔やむな天正よ、俺達はまだ助けられるんだろう彼を?神よ」
そう言った竜潜に神は顔を輝かせた。
「約一ヵ月後にいくつかの世界やハザマに生きるものたちに召集をかけて次期この神の座をかけて四人チームのトーナメント式で争ってもらう」
「次期神の座?」
「という口実だよ。つまりはこの世界の覇権をかけて戦ってもらおうって話をする。ガイナは世界の力が欲しいんだから挑発とわかっていても間違いなく乗ってくる。正々堂々勝負するにしろ、しないにしろね。そこで君達に奴らを潰してもらいたいんだ」
「俺達が・・・?」
「ガイナも元はこの世界の一住人だ。創造主たるこの神にはその存在を抹消する権利はない・・・というかそれをしたら他の神々に世界もろとも滅ぼされてしまう」
神は考えさせるように一拍おいた。
「だから君達にぜひとも勝ってもらいたいんだ。春待くんも取り返せるし一石二鳥でしょ?」
グレーゾーンなやり方だけどね、と神は子供のように無邪気に笑った。
「でも私達にガイナ・ロストを倒す力はあるんでしょうか」
「見たかんじだと天正くん以外はほぼ互角だったから、力が完全な状態だったら勝てると思う」
「俺は・・・?」
天正は先ほどの戦いを思い出していた。
「神レベルの力を得たガイナに君が勝つのは不可能と言ってもいいだろう」
ガクリとうなだれた。
「だけど君は今こうして封印を解いてくれた、しかもほんの少しだけとはいえガイナにダメージも与えられた。どうしてか分かるかい?」
天正は紅火を見た。
「そう。四剣の一つ、その紅火の力だ。呪われた剣ともいわれるその剣に選ばれ炎を呼びだし形状変化さえ可能にした」
「?」
?神は要するに紅火のおかげで勝てたといいたいのだろうか?俺の力と関係なしに。
「そうじゃない。四剣達が使い手として選ぶのはただの強さを持つものじゃなくて、よき心を持っているかどうかで見定める。そして戦ううちにさらにその心意気を評価されればよりふさわしい力を与えてくれる。いわば君はその使い手としての適性を見る受験には受かったようなもんさ、あとは力を伸ばしていくだけだ」
魔力も十分にあって申し分ない素質を持っていた君だからこそ一段階目の具象化どころか二段階目の形状変化も一気に可能に出来た、と言う。
神は紅火を取ると鞘から引き抜いた。刃が燐燐と光り輝く。
「クリムゾンファイア」
あっというまに形が変わりファンタジーに出てきそうな両刃の剣になった。
「これがクリムゾンファイアまたの名を紅火というこの剣の最初の姿だ。炎と爆発をつかさどり使い手に特に勇気と情熱を求める」
また日本刀の形に戻ると鞘に戻し天正に返す。
「この剣の三段階目、もしくはそれ以上を使いこなせるようになれば君は心身ともに上達していてガイナとも剣の力を借りて戦えるようになれるだろう」
天正は紅火に目を落とした。すごい刀だとは思っていたが剣でもあり、とてつもない力を秘めていたようだ。
「天正くんを中心にこれからの一ヶ月で全員力を上げられるよう頑張ってくれ」
「「はい!」」
神がやらなければならないことがたくさんあるといって去ってしまった。自分で力の使い方を見つけないと意味がないらしい。
ガイナ・ロストを倒すため、春待を助けるために猛特訓の日々が始まった。
何も存在させないかのように闇の中で炎が灯る。炎は何も照らすことはなく闇に浮かび上がるだけだった。
ふと、青く光る雫があらわれた。
ー紅火、新しい使い手を見つけたのね
雫が揺れる。
ー久々にな。なかなか楽しませてくれそうだぜ。蒼雨、お前のところはどうだ?
炎も揺れる。
—こちらも順調に強くなっているわよ。上手くいけばついに・・・
闇の中にバチバチと細い電撃が球状となって現れた。
—輝雷か。やっとお前のお眼鏡に適うやつがあらわれたのか?
電撃が渦巻く。
—・・・うむ・・・なかなか・・・のもんじゃ・・・
—ということは一応“いま”ならあたし達四宝全てが力を発現させられる状態にあるのね
賑やかになった闇に緑緑とした一枚の木の葉が舞い降りる
—皆さんおそろいのようですね
—翠嵐・・・いつぶりだ、全て揃うのは・・・?
—さあ・・・どうだか・・・生み出されて・・・以来・・・かもしれぬ
—そういえば地球の小童神に会ったぜ
—あら、元気にしてた?
—俺を始まりの姿に変えてくれやがった
—始まりか・・・なつかしいのう
—私達を作ったあの方はいまどうしてるんでしょうねえ・・・
—あの人のことよ、わかりっこないわ
—・・・我らは・・・
四つの存在がきらめいた。
——使命を果たすのみ
闇がまた静寂に戻ろうとすると炎が瞬いた。
—そうだ、うちのやつがもしかしたら“呼ぶ”かもしれないんだった
—上達が早いわね。呼ばれたらうちの子は多分行ってくれると思うわ
—・・・わしんとこも・・・おそらく・・・
—私の方も大丈夫だと思いますよ
—すまねえな、助かるぜ。何せ相手がすげえやつでさ
雫、電撃、木の葉が空間を震わせた。
—最近噂になってたあいつかしら?
—そうそう、そいつだ
—・・・調子に・・・乗った・・・ガキか
—私達が本物の最強ってのを見せてやりましょうよ
—ははっ頼もしいぜ!
大きく四つは轟くと闇から消えていった—
十一月も終わり、時は十二月になっていた。
寒さがいよいよ冬模様になり、人々の息を白く染め始めたその頃、四人は神社に集まっていた。
「天正さん、特訓どうですか?間に合いそうでしょうか」
本殿の縁側に腰掛けた四人にお茶を配りながら神楽が天正にたずねる。
「うーん、魔力とか体力は元通りにはなったんだけど・・・」
天正は縁側に立てかけた紅火をちらりと見た。
「三段階目、とやらができないのか」
竜潜がストレートに物を言った。
「そうなんだ。どうやればいいのか皆目見当もつかなくてね」
ずずーっと四人はお茶をすする。空気の澄んだこの神社はいつ来ても落ち着ける場所だ。
「早くしないとまずいんじゃないの?もっと頑張りなさいよ」
霜月が手厳しいことをいう。
「三段階目なんて聞いたこともないですからねぇ。形状変化までしか家には伝わってないです」
神楽が私達にはどうしようもないですと言って首を振る。
「神楽たちはどう?なんか新しい技とか出来た?」
天正は聞き返した。
「まあまあだな俺は」
真っ先にそう言った竜潜だがもともと素手で奴らと渡り合ってたぐらいだから全開の力は相当なものだろう。
「霜月は?」
「秘密よ秘密。度肝を抜くようなの見せてやるから楽しみにしときなさい」
治癒担当でありながらあの魔女と互角に戦っていたのだからこっちも心配するようなものでもないだろう。
もちろん攻防両方ともに神道の真髄を極めている神楽も。
「やっぱり一番強くならないといけないのは俺かぁ」
天正は自分の役目を考えるとおちおちのんきにもしていられないのであった。
寒さがより厳しくなった師走中旬に神は神社にまた現れた。
「やあ。それでは行こうか、制裁に」
神が両手を空に広げると天正、神楽、霜月、竜潜の身体が浮かび上がった。
「うおっ」
「きゃっ」
そのまま空高く浮遊していくと空が切り取られたように丸く七色にゆらめいて四人と一神は吸い込まれていった。
次に四人が目を開けると巨大な闘技場のような建物の前にいた。
「受付をしてきて。ちょっとまずい状況になってきててねそっちの面倒を見てこないといけないんだ」
神がそういって消えると四人は改めて前を見た。何もない空間にドームだけが浮いていて自分達の足元からそこへと向けて赤絨毯のように道が伸びている。
「この空間丸ごとがこの大会のためだけに作られたのかしらね」
「さすがは神、だな。やることのスケールがでかすぎる」
霜月と竜潜が思ったままを口にする。
「行きましょうか」
神楽がそういうと四人は正面の大きなガラス張りの入り口へと向かって歩き出した。
天正は背中に掛けた紅火に優しく触れ、神楽は帯を引き締め、霜月は髪留めをほどき、竜潜はスーツのネクタイを緩めた。
「竜潜、なんでスーツなんだ?」
「漢なら戦いの場ではスーツでなくてはいかんのだ」
「へ、へえ・・・そうなんだ」
自動ドアが開いて豪華で派手なロビーが広がる。他に人影も見当たらずどうすればいいのか途方にくれていると、
リン、と鈴が鳴る音がした。
温かみのある木張りの床に灰色の猫がいた。首輪の鈴の音だったようだ。
「にゃあ」
「か、かわいーっ!」
霜月が猫に飛びつこうとするが猫はするりとかわして少し奥へ進んだかと思うとこっちを振り返った。
「にゃにゃ」
「こっちに来いだって」
「霜月、猫語わかるのか」
真面目に天正がそう聞くと霜月は顔を真っ赤にした。
「そういってるみたいだと思っただけよ!」
「ともかく付いて行ってみるとしよう」
竜潜がそういうと四人は奥へと進んでいった。途中途中に部屋がついている、控え室だろうか。
何回か廊下を曲がっていくと白いドアの前で猫は止まって開けろといわんばかりに首を振った。
天正がドアを開けると真っ直ぐに道が続いていた。開けたドアの裏を見ると関係者以外立ち入り禁止の文字が書いてあった。
「俺達が入ってきたのって裏口だったの!?」
「裏口であんなに派手だったんですか。すごいですねーこのドーム」
神楽がほおーとか言って感心している。
猫について進んでいくと受付と書かれたカウンターがあった。さっきのロビーよりも広く、豪華だった。
カウンターに猫が飛び乗ると受付の女性がこちらに気づいた。
「ようこそ!クルちゃんに招かれてきたということは十一月党のみなさんですね」
猫はクルという名前だったらしい。ってそんなことはどうでもいいんだ。
「はい」
「リーダーはどの方でしょうか」
神楽と霜月と竜潜がこっちを見た。
「やっぱ俺がやるのか」
「「もちろん」」
「では、こちらにお名前の方をよろしくお願いします」
天正が登録表にサインすると、番号の書かれたカードを渡された。
「その番号の部屋が控え室となります、左手の階段を上った先をおくに進んで右にありますのでどうぞご自由にお使いください」
「どうも」
そのまま去ろうとすると受付が隠すようにして手招きをした。耳を近づけるとひそひそ声で神からの用件を伝えられる。
「なんて言ってたの?」
階段を上りながら霜月が聞く。
「二階の会議室に来いってさ」
二階に着くとぶら下がっていた行く先案内に会議室の方向が示されていた。それに従って四人は会議室に向かった。
ドアを開けてはいると勝手にドアが閉まった。
「お疲れ、君達といるのを見つかると面倒なことになりそうだったからこんな方法をとらせてもらったよ」
神が議長席に深々と腰掛けていた。適当に座ってと言われたので並んで椅子に座る。
「強くなったかい?・・・聞く必要はなさそうだね」
神は天正の目を見てそういった。
「え?まだ三段階目ってのはできてないんだが・・・」
「「ええっ!?」」
天正のその言葉に三人の方が驚く。あんたねえ、と霜月が睨んでくるのは無視だ無視。
「大丈夫だよ、それだけの力があるならきっと出来る」
「はあ」
よくわからないが大丈夫だと言うのだから大丈夫なのだろう。
「さて本題なんだけど、」
神が人差し指を小さく回すと壁にトーナメント表が現れた。
「いきなり君達とガイナ・ロストの決勝戦になってしまった」
「「はい??」」
全員の声が重なる。
「予定では総勢32組の参加だったんだけど、召集をかけた次の日からガイナ・ロストがどっから情報を掴んだのかわからないけど参加予定者を脅したりひどい時には危害を加えたりしていったんだ」
「なんてやつだ・・・」
竜潜が異常に憤慨している。ある程度のルール違反は予想していたが参加者自体に妨害をするとは思ってもみなかった。
「すぐに見張りをつけたんだけどそれで警戒して辞退した参加者も出てきちゃってね」
残ったのは4組だったという。
「そしてついさっきその2組もやってられないと言って帰ってしまった」
「いいんじゃないんですか?」
神楽が口を出す。
「余計な戦いもしないで済むんですよね。いいじゃないですか。好都合です」
「言われてみればそうね」
霜月も同意する。天正と竜潜も。
「いい自信だ。その調子で頼むよ」
戦いは大体一時間後、ドームの中心の直径1キロはありそうな巨大なグラウンドで始まった。
正反対の観客席から両チームがリフトに乗って現れる。観客席に人影はなくゲスト席に漆黒のドレスようなものを着た金髪の女と同じく漆黒のマントを羽織った大男がいるだけだった。
「何者なんでしょうね、神のゲストって」
「さあ。すげえやつなんだろうさ」
リフトが昇りきると、放送がかかる。
『レディースアーンジェントルメン!いきなりだが決勝戦と行こうじゃないか!!』
やけにハイテンションなMCだなと思っていると、その声に聞き覚えがあった。
「神さまですねー」
「だよね」
神は司会をやりたかったようだ。よくわからない世間話、世界の間話?とでも言ったらいいような話を長々と話すとやっと試合の説明が始まった。
『みごと決勝戦に勝ち残ったカードはこの二チーム!ガイナ・ロスト!十一月党!』
しーんと空気が冷める。誰も何も反応しない。
—スベりまくりです神さま・・・。
『そ、それでは第一戦!お互いの先鋒はフィールドに出てきゅ、ください!』
「かみましたね」
「神なだけにな」
ジーッと三人が天正を見る。
「天正ってそんなことをしれって言うキャラだったのねえ」
「知りませんでした」
「俺は面白いと思ったぞ」
竜潜のフォローはフォローにもならなかった。
「ほ、ほら!最初は誰が行く?」
天正は流れを変えるために話題をそらす。
「向こうはあの魔女のようだな」
「ならあたしが行くわ」
霜月がタンと音を立ててリフトから跳び出しフィールドに降り立った。
『おーっとお互いで揃いました!ガイナ・ロストからは魔導師エーテル!十一月党からは歌姫シモツキの登場です!』
「歌姫だってさ」
「神さまノリノリですね」
魔女はエーテルという名前だったようだ。リフトが下がりフィールドが透明な霊壁に覆われる。
『妨害なしの一騎打ち!さあ勝つのはどっちだ!?』
ドオオォォーンとゴングではないゴングが鳴った。
さすがは神、ガイナが邪魔をしないように防壁を張るとはいい考えだ。
両者がにらみ合う。秘策を用意したと言っていたがどうなるのか。
「障害物がないだけ声魔法の霜月は有利かもしれんな」
竜潜が分析を言うがお互い魔法系である以上そこまでの差は生まれないだろう。
「頑張ってください、霜月さん」
もう届かない声援を神楽が口にした。
戦いはどちらかが降参もしくは戦闘不能となるまで基本的には何でもありの勝負だ。
最初の三人は勝てば一ポイント。四戦目のリーダ戦は二ポイント。最初に三連勝すれば勝ちは決まる。だがそう上手くいくのか・・・。
百メートルぐらい離れてにらみ合う二人に動きがあった。
霜月がエーテルに向かって走り出したのだ。
エーテルが何かを唱えると雷鳴音とともに幾筋もの稲妻が霜月に向かう。
「はっ!」
人間業とは思えない高さに霜月が跳躍してそれを避けると同時に空中で震動波と呼ばれる声に魔力を乗せた軽い攻撃を繰り出す。
エーテルがそれを手から投げた何かで止めようとすると爆発が起きて両者は反対の方向に飛ばされた。
またしてもにらみ合いが始まる。
「前よりも戦力が互角になってるんじゃないか?」
竜潜の言葉に黙って神楽と天正は頷く。
—完全なる互角であるのなら勝負がつくのは早いはず・・・どうなるんだ?
次はエーテルが先に動いた。宝石のような何かを放り投げ呪文を唱える。宝石が勝手に動き始めたかと思うと砕け、正円を描く。あの宝石が霊媒ということは・・・
「召喚魔法も使えるのかあいつは」
竜潜が驚く。相手の系統を霜月は前回の戦いで知り得ているのだろうか。
エーテルの詠唱を止めることなく霜月は謎の歌を歌い始めた。魔力が渦巻き霜月を包み込む。
「霜月さんも何か大技を出す気でしょうか」
「かもな」
十秒くらいの短い間がとてつもなく長く感じられた。
先に詠唱が終わったのはエーテルだった。
「絶魔王ルーパスハウル!」
バンと円が爆ぜて邪気が立ち込めたかと思うと身長1.5メートルくらいの魔王といった感じの服装をして現れた。
《我から盗んだ宝物をこんなことに使われるとはな・・・なあ勇者の供よ。おぬしも落ちぶれたものよ》
「いいから働け。代償は払った」
《なんだ、訳有りのようだな。しょうがない一回だけ手を貸してやろう》
魔王はドンと足を鳴らした。
「「!?」」
—なんだあの圧倒的魔力は・・・?
神と同等かそれ以上の力を感じた天正達は戦慄に身を震わせた。
霜月は・・・?
「他人の手を、借りてんじゃないわよぉっ!負け犬がああっ!」
「エンドレス・シンフォニック・アンサンブルッ!!」
魔王が驚きに目を瞠る。
《うぬ?これはまずいかもしれんな》
霜月が大量に筒のようなものを投げまくった。“音”の力を記録する魔法具だったはずだ。
そして霜月が詠唱で蓄えた魔力を一気に逆流させ散らばったそれにぶつける。
「はあぁぁぁぁっっ!はっ!!」
最後の強烈な叫びと割れて全ての“音”が共鳴して魔王とエーテルを襲う。
暴力的だが、どこか美しいその振動は全てを駆逐していった。
《うおおおぉぉぉっ!!》
魔王が急いで魔力をぶつけるが指向性のない応急処置では間に合わずエーテルの魔力供給もろとも消し飛ぶ。
神が張った観客席との境界が震える。
全てのハウリングが終わるとフィールドに立っている人影は霜月とエーテルだけだった。
そのエーテルがばたりと崩れるようにして倒れた。
『勝者!シモツキィィィッ!!』
「すごいですっ霜月さん!!」
リフトに帰ってきた霜月に神楽が飛びついた。
「へへっ見た?あたしの最強魔法」
「ああ。すごかったよ。魔王も倒しちゃったしな」
人差し指と中指を立てた霜月の顔は誇らしげだった。
「お見事であった」
ふうと言って霜月は座り込む。かなり疲れたようだ。素晴らしい出だしを見せてくれた霜月に残る三人も意気込む。
『続いて二戦目っ!フィールドが変わります!』
ものすごい音とともにフィールドがジャングルに変わった。
「なんでもありなのは開催者側もだな・・・おいおい」
向こうをみるとゴリラもどきが嬉々として降りていくのが見えた。実は本当にゴリラなんじゃないだろうか。
「俺がいく」
竜潜が降り立った。
『それでは二回戦!ゴリラじゃないよ格闘家グオ・リーラ!お相手はイカすぜおっさん拳の達人リュウセン!』
ドオオォォーンとコングではなくゴングが鳴った。
『勝負を中継するかい?お二人さーん!』
「「漢の戦いだ!」」
無駄に息ぴったりな二人は実はライバルになっていたのだろうか。ってかゴリラしゃべった・・・。
それから約一時間はあっただろうか。
見えないジャングルの中であちこちで爆音と木が倒れたり吹っ飛んだりするのが見えるだけで勝負の行方がどうなっているのかは全くわからなった。
「どうなってるんだ・・・」
「心配です」
突然終了のゴングが鳴った。
フィールドがグラウンドに戻ると三倍くらいの大きさになったゴリラが倒れていた。
「何ででかくなってるんだよ・・・」
その横にはガッツポーズを決める竜潜が立っていた。スーツは破れたのかなくなっていてふんどし一つの姿だった。
『またしても勝者は十一月党!!これでガイナ・ロストは後がなくなりました!』
リフトに戻った竜潜は熱気と汗を体中から滴り落としていた。
「おめでとうございます!竜潜さん」
神楽は少し離れてねぎらいの言葉をかける。
「お疲れさま。とりあえず早く服着なさいよ、服」
霜月はだいぶ離れてそう言った。
天正と竜潜は黙って拳をぶつける。
「次は私の番ですね」
神楽がリフトから舞い降りていった。
『続いて三戦目!鉄壁の殺人スマイル、スノウ!巫女さん巫女さんイエイ!神楽!』
フィールドは板張りの道場みたいな床をしていた。
ドオオォォーンとドラが鳴った。
その音ともに春待が走り出した。いつもとは違う日本刀を抜いている。
「雪花」
春待が消えた。
「えっ?」
神楽が悲鳴ともとれる声を漏らした。
「鬼・・・」
神楽の後ろに突然春待が現れた。
春待が日本刀を振るとパリンと割れるような音がしそうなくらいあっさりと結界が破れた。
「対退魔刀!?」
—なんでそんなものをあいつが・・・
「突!」
日本刀を投げ捨て左腰から抜いたレイピアを春待が神楽の首の付け根を目がけて突き出した。
「っ!」
最終結界で刺さりはしなかったが急所を突かれ神楽が崩れ落ちる。カランと薙刀も転がった。
『・・・勝者はスノウ!』
終了のドラが鳴ったような気がした。
リフトに運ばれてからも神楽は気絶したままだった。
「行ってくる。神楽を見といてくれ」
「うん、がんばって」
霜月が無理に笑う。
「いってこい!」
ドンと竜潜が背中を押す。
「ああ」
『さあ泣いても笑っても最後!ガイナが勝てばガイナ・ロストの優勝、テンショウが勝てば十一月党の優勝だ!』
戦いの火蓋を切って落とす音が聞こえた。
フィールドは退廃をイメージされた廃れた町の一部。
中央でガイナと向かい合う。
「勝たせてもらうぜ」
「ふん言っておけ」
今なら出来る気がした。
今なら勝てる気がした。
仲間のために。
「紅火いくぞ」
紅火を抜くと前に構えた。
第三段階のイメージは入ってきた。しかしこれでは勝てない。ガイナも相当強化してきていると本能が告げている。
—四段階目・・・四段階目だ。強く、もっと強く!力を貸してくれ
紅火の炎がドームを覆った。
ただ炎の明るさだけが狂ったように巻き荒れた。
消えると天正の横に三人の人影が立つ。
「・・・」
それは蒼雨。コバルトブルーの刀を持った赤髪の凛とした女の子が立っていた。
「・・・」
それは輝雷。輝きに満ちた刀を手から生やしたように持つ青年が立っていた。
「・・・」
それは翠嵐。緑を彷彿とさせる大剣を持った勇者が立っていた。
「全力で相手させてもらうっ!」
それは紅火。燃える熱き魂に宿ったその力は別世界から新たな力を呼び出す。
それが四剣に秘められた奥義、最強ともいえる力だった。
「ほう、少しは楽しませてくれそうだな」
「無駄口を叩いていられるのも今だけだ、ガイナ!春待は返してもらう」
「洗脳も解けていたか、つまらんもんだ」
四人の偉大なる使い手達がガイナへと攻撃を開始した。
※謝罪・・・またも続きます。待ってくれてる人いなかったらすいません。〆切オーバーごめんなさい→もっくり。
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