少年は今日も一人、部屋の隅
暗闇の中、体操座り
誰に語りかけるでもなくつぶやいた
命に値段をつけるのが好きです
アイツは高くてアイツは安い
そうやって面白がっているけれど
自分のは量ったことが無い
他人を褒めるのが上手です
凄いね、上手いね、がんばったね
少ない語彙で精一杯褒めるけど
ホントは自分にケチをつけられたくないだけ
嘘をつくのが得意です
他人じゃなくて自分につく嘘だけど
騙す相手はいつも自分
騙される相手もいつも自分
本当はよく分かってる
これじゃ駄目なんだってことぐらい
でもこの方が楽なんだ
ひねくれ者って笑うかい?
それじゃあ君はどうなんだい?
似たようなもんじゃないのかい?
綺麗事が嫌いです
エゴを正当化しているだけだろう?
誤魔化すんじゃあないよ
でも自分はよく使ってる
優しくすることが下手です
人によく思われたい
そんな自分が透けて見えるようで
差し伸べた手は自分のために
他人の悲劇に涙する人が苦手です
困ってる人が欲しいのは涙じゃない
泣くなら何かしてあげてからにしろ
そういう自分は何もしない
本当はよく分かってる
考え過ぎなんだってことぐらい
でも何か明確な答えが欲しいんだ
不器用だって笑うかい?
それじゃあ君はどうなんだい?
考えるのを諦めてるだけじゃないのかい?
あぁ嫌になっちゃうなぁ
もっと素直に生きられたなら
あぁ嫌になっちゃうなぁ
もっと器用に振舞えたなら
少しは楽になるだろうに
突然、少年の影がしゃべりだした
また泣き言を言ってるのかい?
いい加減聞き飽きたよ
うるさいな
ほっといてくれよ
分かってるんだろ?
誰かに伝えないと変わらないって
それとも伝える相手もいないのかい?
だまれ
おー怖い怖い
でも今日はちょっとしゃべりたい気分なんだ
話し相手になってやるよ
狂ったフリがお好きな寂しがり屋さんのね
いちいち癪に障る奴だな
だってそうだろう?
周りの奴らは器用に生きてると決め付けて
汚いものから目を背けてると罵って
浮いてる自分はみんなより頭が回りすぎるだけだって悟った顔
その実、誰かに認めて欲しいだなんて
虫がいいにも程がある
じゃあどうすりゃいいんだよ
本当は認めたくないだけなんだろう?
世界は綺麗事で回ってるって
嘘も欲も偽善も全部当たり前のことなんだって
そんなこと・・・
君は自分の理想にしがみついてるだけさ
世界は本当は綺麗なものなんだって
まずは現実を見たらどうなんだ?
・・・
だんまりか
考えるのは得意そうなのに
・・・正しさってなんなんだ?
そんなもんはここには無いのさ
自分で自分を納得させて
へらへら頑張るしかないんだよ
それが出来ないんなら
生きてる意味なんて無いに等しいさ
別に自分で望んで生まれてきたわけじゃない
それなら望んで生まれてくる命なんてあるの?
ないだろう?
自分だけ特別扱いするなよ
分かったよ
自分を認められないなら
死ねばいいんだろう?
そう言って少年はポケットからナイフを取り出した
止めないの?
僕が死んだら君も消えるんだろう?
好きにしろよ
僕は君で、君は君
止めることなんかできないさ
少年はその手首にナイフを当てたが震えて力が入らない
おいおい死ぬことも出来ないのか
何処までも中途半端な奴だなぁ
次会う時はもっとちゃんとしてくれよ
ではごきげんよう
影はそれきり一言もしゃべらなかった
少年は一人声を上げず泣いた
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