いつの間にか僕は小学生の心に戻っていた。
目の前に座っている女の子。
短いスカートをはいていた。
背を向けて机に向かっていてこちらのしていることには気付かない。
辺りはしんと静まり返ったまま。
白い空間。
僕は小学生。
消しゴムをぽろりと落とした。
女の子は気付かない。
取りに行く。

顔を上げた。

仕方ないよ。ダメだよ。こっからじゃ。
僕はちっとも悲しくならずにもう一度消しゴムをほうった。
女の子が目の端でふわ、と消しゴムを見た。

同時に世界が動いた。

僕はビクビクした。
消しゴムを取りに行った。

視線が放たれている。
左を向くと眼鏡をかけた男の子がこっちをにらみつけていた。
男の子は不快そうな顔をして、ませた子供らしく、ふんと鼻をならした。
僕は四つんばいでなんとか天使を取りに行く。

ああ面倒くさいなぁなんてふてくされて、

何度やっても濃くなっていく。


僕は大人に戻っていた。
目の前にいる美しい人の、後ろ姿を見つめた。
皆これを黒髪だなんていうけどあれは嘘だ。
本当は透明じゃないか。
ゆったり細く透き通っていて、中まで見えそうで見えない。
ふるふら、髪を分けると、確かに重みのある頭の中にいるのだ。
まるで黒を上から覗きこんでいるように、こんと押せそうに軽いが、中はどうやっても見透かせないようになっている。

黒くなめらかで、
ゆるふるり、
細く。

湿った風が吹く。


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