暗がりの中で僕は憧れの女の子を見つめていた。遂にやったと、心の内から押し寄せてくる言い難く強い感情で震えた。服の内側にある肌から、女の子特有の体をくすぐられるような臭いが香ってきた。本当にここまでくるとは、夢にも思わなかったことだった。

僕は二浪した日、前も後ろもわからないほどに泣き叫んだ。友人達は慰めてくれようとしたがその手を振り払い、悲しみからくる汚い言葉を喚き散らした。彼らは皆合格者だった。
原因の分析などという形式的な言葉をまた聞いてもイライラが込み上げてくるだけだった。堕落した瞬間も思い出したが、一体もう何に何を結びつけられるのかがわからない。考えたくもなかった。
とにかくもう我慢ならなかった。何もかもかなぐり捨てて逃げ出してしまいたかった。終わった後、当然のごとくオナニーに何日も何日も耽った。無我夢中で興奮を味わったあとには必ずあの虚無感がやってきた。快楽を追って射精まで必死に駆け上がっていくときだけの、自分が喜びに生きていられる感覚を味わい、やがて疲れ果てて眠ってしまう。そんな生活が数週間続くと身体が限界を迎え徐々に体中に鈍い痛みを抱えるようになった。ある日突然意識を失って病院に運ばれた頃には頭が割れそうなほどにずっと激痛が走っていた。ストレスからくる症状に違いないと医者からは言われた。

数日の入院から帰ったあとも心は泥沼の底を這って回っているようだった。
一体自分に生きている価値があるのだろうか。
見回せば友人達は各々楽しそうに大学二年生、一年生になり、不満をこぼしながらも充実した生活を送ってゆく。僕は暑くて苦しくて、窒息しそうな気分でたまらなかった。二浪した人間も同期に居たが今までは自分とは違う人間だと思っていたかった連中だった。段々と意味のない焦りだけが追いかけてきて、自分の中で何かがまた悲鳴を上げそうになった。

また一年、河合塾本郷校に通う日々が暗く始まった。

最終的に不眠症だと診断された自分は就寝前に睡眠薬を服用せざるを得なくなり、薬の効き目なのか一日中ぼうっとして過ごした。
その状態でまた一年、同じことの繰り返しが始まる。
去年よりさらに、意味のない日々。

しかしそれでも、電車にはいつも舞がいた。一日一日ゆっくりと時間を重ね、見る度に少しずつ美しくなっていく。憧れの女の子を見ていても時間の流れは感じられた。もう待ち受けにする写真を何回選んだことだろうか。何日経っただろうか。見る度に切ない心の中が舞でいっぱいになり、次々と思い出した。夏の暑い時期には舞は友達とカフェで他の男からの視線が心配になるほどの薄着で、話に時々相づちを打ちながら無邪気に振る舞っていた。冬の寒い時期には、触ったらつんとはね返ってきそうな頬を赤くして、舞は車内に小走りで乗りこんできた。
あの舞が欲しい。手に入れたい。僕は夢心地でそう考えた。どういう形でも、想像なんて湧かないけれど、もし舞が僕のものになれば・・欲しい・・欲しい・・心が欲しい。あの笑顔を向けてくれる、舞の・・心も、全てが欲しい。手を伸ばしてすくい取りたい。すくい取ってこの手に載せたい。
しかしもう舞に触れるのはおろか、話しかけるのすら不可能に近かった。まともに異性というものに触れず育ち、女の子に不慣れだったせいでストーカー行為を繰り返した自分は、本人に顔も知られSNSでのブロック・スパム報告も全面的にされてしまったし、実際に話しかけようとすると当然逃げられるのが落ちだった。切なくやりきれない思いを胸に抱えたまま時間は経った。

するとある日の夜、いつものように舞や舞の友達のアカウントを巡回し終わり、その日は収穫なしに溜め息をついてブラウザを閉じようとしたその時、舞がTwitterでふとこうつぶやいた。
「レポート終わんないよぉぉ(>_<)サイゼで頑張りなう(。・・。)」
それを見た瞬間僕ははっとしてディスプレイに釘付けになった。舞の言うサイゼは東大本郷キャンパスのすぐ近くにあるサイゼリヤのことだった。
思考が数ヶ月ぶりに物凄い勢いで頭の中をめぐり始めた。チェックした舞の友達は発言からして全員自宅にいる。時計を見ると10時を回ったあたり。あのサイゼリヤの営業時間は夜の11時半までのはずだった。人のまばらな店の中で舞が一人でテーブルに座っているのが目に浮かんだ。熱めの紅茶が好きな舞は少しふうふうと冷ましながら飲んでいることだろう。
僕は何かに突き動かされるように急いで身支度を済ませると、すぐさま駅で電車に乗って舞のいるサイゼリヤへと向かった。電車の中ではさっきの訳のわからない感情が火をつけたようにますます大きくなるばかりだった。電車を降り、走ってサイゼリヤに向かった。感情は燃え盛り目はらんらんと輝き、今までにない不気味な興奮に襲われて僕は戸惑いながらも無心に走った。ようやくサイゼリヤにたどり着くと窓際にぽつんと舞が一人で座っているのが外から見えた。僕は落ち着いて呼吸を整えると、他人に見つかって怪しまれることのないよう隠れて舞の様子を見守った。
道を通る車の騒音を聞きながら静かに時間は流れた。客の入りは少なく出て行く人は一人一人、家路を急いでいるように見えた。時計を見ると10時41分。まだ舞は帰らない。時が来るまでいくらでも待つつもりだった。真剣な表情でレポートに取り組んでいる舞の写真を撮ることも忘れなかった。
そのまま20分ほど経った頃だろうか。舞が席を立つのが見えた。僕は急いで店内に入ると店員に一名だと言って静かに舞のテーブルのある方へ歩いていった。確認したようにそこに舞はいなかった。周りに気付かれないようにしてナップザックから白い粉末状の睡眠薬の入った袋を取り出すと、三つ開封して舞の飲みかけのカップに注ぎこんだ。それをかき混ぜるとそのまま舞から死角になるような席について帽子を目深に被り、やってきた店員にドリンクバーを注文した。
舞はトイレから帰ってきた。僕が見守る中舞は何にも気付かずカップを手にとって紅茶を飲み、もう20分ほど作業をしていると段々黒髪は揺れ、可愛らしく頭をこくり、こくりとさせるようになってきた。目を覚まそうと思ったのか舞は紅茶をまた少しすすったが睡眠薬には勝てず、そのうちテーブルの上で小さく寝息をたて始めた。
薬が効いている舞は途中で起きてしまうこともなく、しばらくすると店は閉店時間を迎えた。僕は持ってきた睡眠薬の効き目の強さに安心してテーブルから立ち上がった。自分のたまたまかかった精神科医は良い医者とは言えなかったようで症状がまだ軽いにも関わらず薬物療法しか指定しなかったため、その分睡眠薬は大量に処方されていた。サイゼリヤの店員に知り合いだからと説明すると、意識が朦朧としている舞を抱えて建物の外へと出た。
あとは背徳感からくる緊張のためか、移動中のことはよく覚えていない。
まるで付き添っているような言動で電車に乗り自分のアパートまで連れ帰ったのは覚えている。舞が薄暗い自室の床でそのまま寝てしまったのを見て嬉しくなるとじっと寝顔を眺めた。
しかしまだやることはあった。目を覚ました舞が暴れてケガをしたりしないように細い腕や足を布とテープを使って家のテーブルの足などに固定したのだ。
「・・僕は君を手に入れたよ、舞」
心の中で呟くと、おそるおそる、今まで近付いたことがないくらいの距離に顔を持っていってみた。
間近で見た舞はやはりうっとりするような顔立ちをしていて、薄暗い部屋に入ってくる外の明かりの中に、黒い髪のかかった額や目元がふわりと浮かび上がった。
さらに近づいて、寝息をたてている頬と首のあたりに顔を入れて嗅いでみるとかすかに甘い香水が香った。
あんなに愛した女の子が自分の目の前ですやすやと眠っていることに感動を覚えると、手を回して舞の体を包み込むようにやさしくぎゅっと抱きしめてみた。静かに目を閉じると、繊細で柔らかい体の中で心臓がとくん、とくんと打っているのを感じた。女の子の体を抱きしめているという実感が湧いてきて、小さな子供が母親に抱かれて安らいで眠るときのような、言葉に出来ない幸せな感情がじんわりと広がった。体がふわりと宙に浮いて、眠りに落ちてしまうようなものだった。
しかしそれより前に体の中心に強く脈打ち出していた黒い背徳感は、体を安息で満たしたりなどさせなかった。意識されたことで背徳感は心臓とともにますます強く鼓動し、毒のように体中をめぐってきた。
覚醒した状態の頭をわずかに持ち上げて舞の体の下半分の方向を見ると征服されていない無防備な女の子の体が自分の下に横たわっていた。心臓は今や黒くばくばくと鳴り、毒の回ったような震える手で、舞の服をゆっくりと脱がせていった。

その時舞がふっと目を覚ました。
「ん・・・?」
僕は驚いて固まった。
「ん・・・・・・・・ん・・・・」
部屋はしんとしていた。意識は相変わらず朦朧としているようで動かない。僕は作業に戻った。舞の大きくないブラジャーをなんとかそっと外すところまでいくと、目の前に舞の綺麗な胸が現れ、僕の興奮は最高潮に達した。白い肌に想像したような小さな乳首が浮いていた。
おそるおそる手を伸ばすと柔らかいおっぱいをそっと手にとって揉んでみた。
「・・・・・・・・・・・」
舞は寝息を立てている。そのまましばらく女の子のおっぱいの柔らかさを丹念に味わってみた。
「あ・・・・・・んー・・・・・あ・・・・・」
舞は少し声を上げた。感じてるのだろうか・・?
舞のきれいなおっぱいを手のひらに包んで優しく揉んだあと、少し上に向かっているようにも見える乳首もくわえて吸ってみた。
「ふぇっ・・・・・・?」
舞がぴくりと反応した。
背徳感が後押しして段々勇気が湧いてきた。もうここまできたらそのままいくしかない、と僕は考えた。暴れないようにしてあるから大丈夫だろう。
再び乳首をくわえると舌で転がしたり舐めたりして、汗ばんだ舞の体の味をじっくりと楽しみ始めた。
「ふ・・・・んっ?・・・・あ・・・ふぁっ?・・ふ・・・」
舞の意識が少しずつ出てきた。
もっと欲しいと思い、強く乳首を転がし始めたとき舞は遂に気が付いた。
「えっ・・・・・・?」
目の前でストーカーが自分の服をはだけ、乳首に吸い付いているのを舞は発見した。
「っ、いやああぁ!・・助けて!誰か助けて!・・この・・」
覚悟を決めたはずなのに気が動転した僕はとっさに馬鹿らしいかもしれない台詞を口にした。
「叫んだらどうなると思う?」
舞ははっとすると震えて黙った。変質者を怒らせると何をされるか本当にわからない、殺されても不思議じゃないと賢い舞は考えたようだった。
実際に自分にそんな勇気があるとは微塵も思わなかったが舞を静かにさせることに成功した僕は震えながら舞のおっぱいを揉み、時々乳首を吸ってみることを繰り返し始めた。
同時に下半身も手でいじると舞は身も悶えはじた。かすかに上がる声と形の整った顔にできる独特の動きは、舞が感じていることを表していた。少しずつ少しずつ、局所に近付くように時間をかけて愛撫していったあとに、下着の間に手を入れ、焦らされて火照った隙間に小さな音を立てて異物を差し込んだ瞬間、舞はああああっと林檎のような悲鳴を上げた。
「舞・・・発情、・・・してるの?」
そろそろ下のほうが我慢ならなくなっていた僕はパンツを脱ぐと勃起したペニスを出し、舞の入り口にやさしくあてがった。
「いやぁ・・!やめて、やめて、助けて、ああっ」
「挿れるよ、舞」
股を開いたせいで入り口の場所はよく見えていたが侵入してゆくための角度が分からない。何度も失敗して舞の陰部をこすりあげるのは舞にとって一番の恐怖を味わう時間が長引いた。
「ひっ・・んんああっ嫌ああぁ、止めて、止めてええぇ・・・」
恐怖と性感の刺激が余計に快楽を生み出したことで焦らされていた舞は、遂に肉棒に入り込まれた瞬間、声にならない悲鳴を上げてがくがくと痙攣した。
その後ゆっくりと肉棒を挿入されていく途中の舞の顔を見ていると、有り得ないはずの目の前の現実、嫌いな男の一部が体温の隙間を押し入ってくる感覚を嘘だと首を振って、恐ろしさのあまり愕然とした表情で泣きそうな声を漏らしていた。
僕の方は初めて味わう女の子の膣の感覚を受けとめるのに必死だった。亀頭が刺激される度に腰が抜けそうなほどの感覚を持っていかれるような気がした。二人とも汗だくで床の上で交尾していた。
「あああっ!?・・ああっ、だめえぇ、・・あああっ、・・ああああっ・・・・」
亀頭が届く範囲の膣の表面を、手前から奥に、奥から手前へと撫で回すと、舞もびくびくと可愛らしく反応して喘いだ。
僕は舞が感じていることで軽い満足感に浸っていたが、ふと気が付いた。
舞は嫌がりこそしたが痛がってはいない。
処女膜を破ったわけではなかった。つまり舞は処女ではなかったのだ。途端にもの凄い量の嫉妬が体を昇ってきた。
「ねえ、誰としたの?舞」
声を漏らす舞に問いかけた。
「えあっ・・あっ、あああっいやあっ・・あああ・・」
舞は襲ってくる快感に抵抗するのに必死だ。
「言ってよ」
「ふぇ!?あ、あああっ、・・・」
「・・・言えよ!・・・言ってよ!ほら!」
僕は舞の下半身とつながったままの情けない格好で舞の肩を掴むと叫んで揺さぶった。頭が沸騰しそうになっていた。
訳も分からず恐くて声を上げながらぽろぽろと涙をこぼす舞は、揺さぶられて後ろにある木の食器棚に頭をごつんとぶつけた。舞は鈍い痛みにうつむいて髪を垂らすと目を閉じ、その光景にやりきれなくなった僕はむしゃくしゃして舞の体をいきなり激しく突き始めた。
「ああっ!?いやぁっ、あっ、あああっ、やあっ、ああっ、・・」
舞は可愛い顔を悶えさせてさらに喘ぎ方を大きくした。次々と味わわされる快感から逃れようと、必死に身体をよじらせる舞の表情は紛れもなく女の子のものだった。奥行きのある立体的なペニスの亀頭が性感の壁をくまなくこすり上げていく度に舞の膣は反応し、それに応えるようにペニスを包み込み、女の子は喘いだ。
次第に、じっくりと射精感は高まってきた。ぬるぬるとした抵抗の多い膣内で刺激されることでマスターベーションとは全く別の感覚や度合いで性感は高まった。尿道や亀頭は固くなり、何十回もの射精を望んでいるように脈打った。
「舞、出すよ」
僕は呟いた。
「あっ、いやあっ・・絶対っ・・あああああああっ・・・」
僕は舞の名前を呼びながら思いきり突いた。
「舞っ、舞っ、舞・・・!!」
自分が舞の体の中に射精するイメージが近づいてくるにつれて早く舞を孕ませたい、種付けしたいという欲求が、加速度的なスピードで恐ろしく高まってきた。小さな子供が我慢ならなず暴れるときよりも遥かに原始的で緊急で、どうしようもなく出したくて出すことしか考えられない、何回も味わったあの出す、出す、出す、出す、出す、出す、出す感覚。
射精寸前のしびれるような臨海状態が浮遊感とともに長く続き、より圧縮された快楽がじわじわといつ起こるかわからない爆発を夢心地でひたすら突きながら待った。もっと射精したい、もっと射精したい、もっと射精したい、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと射精したい・・・・!!!!!!

長いピストンの後、遂にペニスがどくんと脈打ち、精液が勢いよく舞の膣内に注ぎ込まれ始めた。その瞬間爆発の虹色か白色かの光が僕の恍惚状態の頭の中を一気に飛び回り、何も考えられず、ただ腰を振って次の射精を促した。
「舞・・・、舞ぃ・・・舞・・・」
「はっ・・ふあっ・・あ・・あ・・あ・ああああああ・・・」
射精を女の子の膣が受け止めてくれる満足感を何度も何度も味わい、思わず声が漏れた。舞は”嫌がっても嫌がってももう抵抗できない”絶望に放心状態でただもう相手のなすがままに、泣き声を漏らし顔を歪めながら震えた。長い時間をかけて体が求めるだけ突いて射精しつくしたあと、僕はペニスをゆっくりと舞から引き抜いた。舞はしばらく腰が痙攣させていたがやがて静かになり、膣の中からはどろりと精液が流れ落ちていった。

僕は逃げ出さなければいけないのだろうか。
とてつもない疲労感に襲われながら、僕はベランダに出て考えた。
当ても何もない。

きっとお金が要ることだろう。
もしかしたら舞を人質にとればお金持ちの両親は身代金を沢山払ってくれるかもしれない。

僕は頭を振ると煙草に火をつけた。

朝日が昇り、遠くで早朝を知らせる鳥の鳴き声が小さく聞こえてくる。
外はもうぼうっと青く、かすんだ空が段々と明けてきていた。自分と舞だけが昨日に取り残されていて、皆がまた朝から一日を始めるのだという気さえした。
僕は煙を吐くと上を見上げた。煙は行く先もなくふわりと空気中を漂って消えた。
いっそこの煙草でここを火事にして燃やし尽くしてしまったらどうか・・・。
煙草を吸い込むと、静かな光景の中で煙草の先だけがぼうっと燃える色に染まった。とにかくどうしようもないという事実だけが宙に浮かんで、自分は夢のような世界を生きているような気がした。
朝日は美しかったし、鳥は小気味よくさえずったし、ベランダの手すりはぬるく手を冷やした。
僕はまだ火の点いた煙草を指で宙へ放った。涼しい朝方の空気を切って下へゆくその煙草よりも、重たく沈んでいく自分の心のほうが勢いよく、重く落下してゆくような気がした。

恐らく重力の責任ではないのだろう。

最初に、恋に落ちたときもそうであったように。


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