彩夏「はて、私の部屋はこんなに可愛らしい様相だったかな?」

彩夏「それに、このゴミ箱はなんだろう」

彩夏「ふむ…」

彩夏「シンプルでいいデザインじゃないか」

彩夏「なんとも…そそるな」

彩夏「うう…かぶりたい!なんだ、この衝動は?」ドキドキ

鈴「アヤ姉ちゃーーん!」

彩夏「わっ!?」スポッ

鈴「遊びに…ってなんでダサイゴミ箱かぶってるの!?」

彩夏「(し、しまった!うっかりかぶってしまった)」

鈴「どうしたの?なにか嫌なことがあったの」

彩夏「えーっと…私を知る君は、一体誰だい?」

鈴「ホントにどうしちゃったの!?」




ザワザワ

彩花「(知らない神社だ…)」

彩花「(どうしてこんな所にいるんだっけ?初詣?)」

彩花「(今日って元日だったかなあ)」

和彦「彩夏じゃないか。彩夏も合格祈願?」

彩花「わっ!えーと、誰だっけ?」

和彦「またキツイ冗談だなぁ。一週間前に会ったばっかりだってのに」

彩花「(ヤバイ、マジで誰?)」

和彦「まぁいいや、行こうぜ」

彩花「(これは何かがおかしいぞ…)」




鈴「お兄ちゃんてば、素直に会いたいって言えばいいのにね。なんか踏み止まってるみたい」

彩夏「ふむ」

鈴「アヤ姉ちゃん?」

彩夏「どうやら私の意識がもうひとりの『アヤカ』なる人物との意識に成り代わったようだな。とすれば、さしあたり『アヤカ』として生活できたほうがいいか」

鈴「どうしたの?邪気眼なんか発動して」

彩夏「いいや、なんでもない。鈴ちゃんだったね?」

鈴「だからそうだって」

彩夏「『私』という人物について、またその周囲の人間関係について、詳しく聞いてもいいかな」

鈴「こいつはいよいよベラボウだぜ…」




和彦「彩夏はいくら入れるの?」

彩花「えーと、じゃあ100円で…」

和彦「じゃあってなんだよじゃあって!じゃあ俺も100円で」

彩花「(突っ込んだら負けだな)ところで合格祈願って、何の?」

和彦「言っていいことといいことがあるぞ!俺達学生の唯一の目標、受験だろうが」

彩花「(突っ込んだら負けだ)受験かぁ…」

和彦「どうしたんだ?感慨深そうに」

彩花「(どうも、別の『アヤカ』さんの体に入り込んじゃったみたいだな)」

和彦「おっ!俺達の番だ」チャリーン

彩花「(まあ青春時代に戻れたと思えば、儲けものかな…なんて)」

パンパン




彩夏「それで、そのスカーフをかぶった人を『食べる』ことであんたらは生き延びられるわけだ」

ぐり「その通りです」

ぐら「あまり驚かれないのですね」

彩夏「いや、ファンタジーが続きすぎて、なにがなにやらね」

ぐり「もっと嫌悪されると思っていましたが」

ぐら「意外です」

彩夏「そりゃあ、生きるために何かを犠牲にするのはあって然るべきことさ」

彩夏「今人間が犠牲にされないのは、天敵がいないだけの話」

彩夏「自然の摂理である以上、食われる側が文句をいうことはできない」

ぐり「理解が早くて助かります。それでは、ここらで私たちはお暇します」

ぐら「ちなみに、そのゴミ箱を通せば、他人の思考が筒抜けですよ。試してみてください」

彩夏「ふーん…」




彩花「(でも参ったな…勉強なんてずっとしてないから、何をしていいかわからないや)」

彩花「ねえ、君」

和彦「だからどうして今日はそんなに他人行儀なんだよ。和彦って呼べばいいじゃねえか」

彩花「和彦」

和彦「なんだい」

彩花「少し勉強を教えてくれない?お礼はするから」

和彦「お礼なんていいよ。じゃあ、どっか店の中入る?」

彩花「そうだね。あ…私手ぶらだ…」

和彦「じゃあこのあと、どっかで待ち合わせしようか」

彩花「いや、面倒だしこのまま私の家に行こう」

和彦「え!?いいのか?でもそれって…」ソワソワ

彩花「で、ここから私の家ってどっちだっけ?」

和彦「彩夏…ボケたのか?」




ぐり「どうです。ゴミ箱生活、楽しんでますか?」

彩夏「いいや」

ぐら「それはまたどうして?」

彩夏「面白くないからね。他人の思考なんて、分からないくらいがいいんだよ」

彩夏「ところで、鈴ちゃんに聞いたよ」

彩夏「キミたちの標的の赤いスカーフの人って、『私』の幼馴染の直樹くんなんだってね」

ぐり「直樹くん?そんな名前でしたっけね」

ぐら「それであなたは、どうされるおつもりでしょうか」

彩夏「フン、わかりきったことさ」




和彦「ハアハア…もしかして、ここじゃないか?彩夏んち」

彩花「えっ、そうだったかな…」

和彦「ほら、表札に西崎って。彩夏の名前もあるぞ」

彩花「ほんとだ。じゃあ、遠慮なく上がって」

和彦「ああ…悪いな…」

和彦「へぇー…漫画とか読むんだな。オススメある?」

彩花「(知らない漫画しかねぇ…)えーっと…」

和彦「…やっぱりな。おかしいと思ってたんだ」

彩花「」ギクリ

和彦「キミは彩夏じゃないだろ。誰なんだ?なんで彩夏そっくりなんだ?」

彩花「…私にもよくわかってないの。私と『彩夏』さんの身に何が起こったのか」

和彦「彩夏は…どこで何をしてるんだ?」




黄ねずみ「赤と青、遅いですね」

白「一体何をしているのやら」

紫「まあまあ、エサの調達に少し手間取っているのかも知れません」

バァン

彩夏「やっぱり、まだいたんだね」

黄「貴方は…!?」

灰「まさか乗り込んでくるとは」

緑「赤と青は何をやっていたのでしょう」

彩夏「私はね、他人の思考なんぞに興味はないし、『直樹くん』がどうなろうが構わないんだよ」

彩夏「その私が、なんでいまだにゴミ箱をかぶっているか、分かるかい?」

白「何を言っているのですか?」

彩夏「これをかぶっていないと、あんたらネズミの姿が見えないものな」

黄「口元に血…」

緑「まさか、貴方は赤と青を…」

彩夏「さあ、次はあんたらの番だ」ニヤリ

ギヤアアアア
バリバリバリ
グチャ
ボリョボリョ




和彦「もしも、このまま彩夏が戻らなかったら、どうすりゃいいんだ…」

彩花「彼女のことが大切?」

和彦「当たり前だ!」

彩花「ふうん…いいね」

和彦「何がだ?」

彩花「『彩夏』さんが羨ましいよ。こんな風に素直に思いをぶつけてくれる相手がいてさ」

和彦「(しまった、つい…)」ドキッ

和彦「あ、あああんたにだって、そ、そういう相手がいただろ。顔はか、かかわいいし」

彩花「そうだといいけどね…」フッ

和彦「(くそっ、彩夏の顔でそんなこというなよ!そんな笑い方すんなよ!萌えちまうだろうが)」ガンガンガン

彩花「わっ!どうしたの、和彦くん。頭を壁に打ち付けたりして」

和彦「ああごめん!なんでもないよ!ヤリてえ!」

彩花「やるって何を?」

和彦「しまったあああ!!つい本音が!」




彩夏「さあ、殺ってやったぞ…」

彩夏「あー、体が重いな。無理しすぎたかな…」

彩夏「まあいっか、元々ここじゃ私は異分子みたいだし…このまま消えるのも、悪くないな」

彩夏「って、そんなわけないじゃないか…」

彩夏「帰りたい、帰りたいよ…」

彩夏「みんな元気かなあ。お母さん、お父さん、和彦…」




彩花「」プークスクス

和彦「いやその、ごめん…初対面のキミを相手にあんなことを思うなんて」

彩花「いいよ。見た目はキミの彼女なんだろうし。それに変な話、ちょっと感動した」

和彦「え?」

彩花「キミみたいに欲望まっしぐらな人なんて、長らく見てなかったからなあ」

和彦「無邪気といってくれ…」

彩花「私も知らないうちに、壁を作って自分の中に踏みとどまってしまっていたのかなあ」

和彦「…」




ザッ

雲上「まったく、無茶するなあ」

彩夏「えっ」

雲上「まさか存在が希薄になったことを逆手に取って、ネズミどもを喰らうなんてさ」

雲上「でも、遅すぎたね。そこまで存在を吸われては、誰にもゴミ箱を取ってもらえなくなるよ」

彩夏「あなたは…?」

雲上「君が僕について知る必要はない。どうも、運命の交錯があったようでね。今、上の人達に何とかしてもらってるから」

彩夏「どういうこと?」

雲上「簡単にいえば、キミたちは元に戻れるってわけさ。安心して眠りたまえ」




彩花「皮肉な話だよね。私が自分の足踏みの馬鹿らしさに気づいた頃には、そばに直樹くんがいないなんてさ」

和彦「そんな…必ず戻る方法はあるよ。それまで、俺で良ければ」

??「そう、元に戻れるよ」

和彦「誰だっ!?」

彩花「(この男どさくさに紛れて何を言おうとしやがった…)」

??「俺のことは神とでも思っててくれりゃいい」

神「いや、悪かった。俺のミスで、『ぼくヒロ』と『不思議』のヒロインを入れ違えて配置しちゃってよ」

和彦「…なんのことだ?」

神「いやコッチの話。まあさっきも言ったけど、全部元に戻すから、何も心配しなくていいよ。それじゃ」パアアア

和彦「待て!まだなにも納得しちゃ…」パアアア











直樹「彩花!!!しっかりしろ!」

彩花「直樹…くん?」

直樹「気がついたか。良かった…」ホッ

彩花「やっと、ちゃんと会えたね」

直樹「俺はもう、何がなんだか…」

雲上「悪かったね。エラーが発生したんだ」

雲上「でもまあ、終わりよければ全てよしってことで、どうか許してくれ」

直樹「ああ…彩花が無事でよかった」

彩花「ねえ、直樹くん」

直樹「なんだ?」

彩花「ヤラない?」

直樹「」ブッ




和彦「ハッ!彩夏はどうなった?」ガバッ

彩夏「おはよう、和彦。私のベッドで取る睡眠は良かったかい」

和彦「その横柄な態度は、彩夏っ!」

和彦「って、なんで全裸なんだ!!?」

彩夏「キミが寝ているのを見てると、ムラムラしてしまってね…今まで言えなかったが、私はキミが好きなんだ」

和彦「なんでいきなりカミングアウト!?そんなもん俺だって好きに決まってるだろ!!!」

彩夏「だったら、お願いだ。私と…」

和彦「いや、すまないがまたにしてくれ」

彩夏「えっ?」

和彦「今の俺に彩夏とヤる資格はない。俺はお前の気持ちなんて考えてこなかった」

和彦「でも、待っててくれ。お前の気持ちに堂々と応えられる男になってみせる」

彩夏「…女の気は長くはないよ。あまり、待たせないことだね」

和彦「…善処しよう。じゃあ今日はもう帰るよ」

和彦「受験、お互いがんばろうぜ!風邪引くなよ!じゃあな」バタン

彩夏「ふふふ…変わったな、和彦。ちょっとだけ、賭けてみようかという気になったよ」




雲上「ほんと、人が悪いですね。ふたりの『アヤカ』をわざと入れ替えるなんて」

神「そういうなよ。面白かっただろ?」

雲上「僕はずっと焦りっぱなしでしたよ。こういうのは、ほんとこれっきりでお願いしますよ」

神「保証はできんな。これからのコンテストでも、どんどんみんなに無理難題を押し付けるつもりだしな」

雲上「ひどいなあ」

神「俺はひどいやつだ」

雲上「でも、作中でシリコンの神を名乗るのは傍目にもおこがましいし、もうやめてくださいね」

神「ああうん、それはマジでごめん。でもまあ、俺っていつもそんなんっていうか、調子のってなきゃ俺じゃないっていうかー」

雲上「もう死ねよ」


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