私の家には、ポチがいます。
ポチは、ふつうは裸で飼うそうだけど、うちでは服をきせています。そのほうがかわいいもの。
私はポチと大の仲よしだから、ごはんの時もいっしょです。
でも、お兄さまはポチが嫌いみたいで、私のいすのそばの床でポチがえさを食べていると、いやな顔をします。
えさをやるのはお兄様の仕事です。いつも嫌そうな顔をしながらえさを与えています。
ポチは、四つんばいでごはんを食べて、そのままずぅっとひるねをします。それを、お兄様は汚いものをみるかのような目で見ます。
でも、私はポチが大好きです。

ポチは、ポチだけど、今のポチは4番めのポチです。最初のポチは、生意気だからといって、捨てられました。
2番め、3番めのポチも、とつぜんいなくなってしまって、お父様はそのたびにかわりのポチを連れてきました。
お昼を過ぎると、お母様はポチを自分の部屋へと連れて行ってしまいます。それから何時間かはポチと遊べないので、退屈です。
だから、そんなときは次はポチとどんな遊びをしようかを考えます。そうするとすぐにポチと遊びたくなっちゃうけど、我慢します。
私はもう、お姉さんになるんだから、しっかりしなきゃいけません。お母様からこのごろずぅっと、ずぅっと言われているので、私は何とか我慢します。
我慢した後、ポチと遊ぶと、とてもすばらしい気持ちになります。楽しいとか、誇らしいとか、そんなかんじ。

最近、お父様がなかなか帰ってこなくなりました。
今日でもう4日目になります。私に弟か妹かができたという話が出たころから、お父様は何だか様子がへんです。
今までは、どんなに忙しくても家に帰って、私とお話してくれたのに。
お母様に聞くと、お父様は今忙しいじきなのです、としかられました。
はやく忙しくなくなればいいのに。

お父様が帰ってこないので、今までお父様にしていたお話もポチに聞かせるようになりました。
ポチは言葉の意味がわかっていないのか、首を傾げてばかりいます。
でも、ポチと話すと元気が出てきて、私はお父様が帰ってこないのも我慢できるようになりました。
私はもうお姉さんになるんだから、ちゃんと我慢しなければいけません。
ちょっとだけ、さびしいけど。

ここのところ、お兄様も様子がおかしいです。
お父様が帰ってこないせいなのでしょうか。
お仕事が大変なのはわたしも分かっていますけど、もしもお父様が帰ってきたら、お兄様も元気が出るはずです。
そうおもって、お父様に手紙をかきました。
へんじは、帰ってきませんでした。

お兄様はお母様と喧嘩ばかりしています。ふたりの声がドアごしにひびくと、私はこわいのや、さびしいのでいっぱいになってしまいます。
ポチは、そんなときふるえている私のそばにきてくれます。
そうすると、少しだけこわいのやさびしいのがおさまります。
不思議だなぁって、そのたびに思います。

とうとうお兄様は家を出て行くと言い出しました。
お父様がもう一ヶ月も帰ってきていないせいかもしれません。
どうして出て行くの?とお兄様に聞いたら、お兄様はもう我慢が出来なくなったんだと言って、申し訳なさそうな、さびしそうな顔で私の頭をなででくれました。
お父様が帰ってきたら帰ってきてくれる?と聞くと、あの人はもう帰ってこないよ、と今度は少し怒ったような、でもやっぱりさびしそうな、そんな顔をしました。
そのまま、お兄様はすまない、すまないと繰り返し謝りながら、家を出て行ってしまったのでした。

お兄様が家を出て行った次の日のことでした。
私はお兄様の代わりにえさをあげようと、ポチを探しました。
でもポチはなかなか見つかりません。
あきらめて、お母様を呼びにいきました。
すると、お母様の部屋にポチはいました。お母様はまだ寝ているようです。
お母様がお寝坊するなんて。とてもとても珍しいことです。
わたしはおどろきました。
すると、ポチがこちらへ歩いてきて言いました。
ポチはにほんあしであるいていました。

「ククク・・・。やぁっと自由になれたぜぇ。ここの家族ごっこにももう付き合わなくてすむな。イヤ、ホント親父は愛人と高飛びするし?母親は何か間男と子供作ってるし?間男って俺の事か!アハハ傑作!唯一まともな息子は家族に嫌気が差してとんずらしちまった!これで家には身重のババァと餓鬼1匹しかいなくなったわけだ!ホント、このババァの性欲ったらないぜ!捨てても捨ててもペットと称した男拾ってきてさぁ!そのくせてめぇら家族の体裁は保とうとしてやがるのな!ホント吐き気がするぜ!だかっらぶっ壊してやった!ああ、ぶっ壊してやったのさ!この!俺が!」

そのあともポチはわけのわからないことをまくしたてていました。そのとき、わたしはぽちのてがあかくぬれていることにきづきました。
ぽち、そのてはどうしたの、ときくと、

「もう俺をポチと呼ぶんじゃねぇ!みりゃわかんだろババァの血だよ!」

となぐられました。でもなぐられたことよりもぽちがいっていることのほうがきになりました。
ベッドにちかづくいてみました。おかあさまをおこそうとそのからだをゆらしてみました。わたしのてはいつのまにかぬれていました。
あかく、ぬれていました。
おかあさまは、いつまでたってもめをさましませんでした。

わたしのいえには、ポチがいます。
ふつうははだかでかうそうだけど、うちではふくをきています。そのほうがかわいいもの。
わたしはポチとだいのなかよしだから、ごはんのときもいっしょです。
でもぽちはきらいみたいで、いつもいやそうなかおをしながらえさをあたえてくれます。
よつんばいでごはんをたべて、そのままずぅっとひるねをします。それをきたないものをみるかのようなめでみます。
でも、わたしはポチがだいすきです。


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