—貴方は悪役?
「そうかもしれないし、そうではないかもしれない」
—ふーん。やっと出会えたと思ったのに。
「悪役に?」
—そう。ずっと探してるの。私だけの理想の悪役。
「理想の悪役、ねえ」
—変かな?
「さあ…。会ってどうしたいの?」
—決まってるじゃない。私を殺してもらうの。
「へえ。それが君の理想の悪役か」
—殺そうとしてくるその悪役と私は戦うの。でも最後は負けちゃって殺される。
「それは残念な話だね」
—そうかな?悪役がいつも負けるとは限らないんじゃない?
「だとしても主人公の君は死んでしまうんでしょ」
—死んでもいいの。私が殺されたという事実が物語に記されるなら。
「わかんないな。もしそれで死んだとしても、君に何の得があるんだ」
—私が生きたという証明。私の生きた意味。それだけが私の望む運命の結末。
「そんな…」
—だから、ね。貴方は貴方のなすべきことを果たして。
「わかってたのか」
—もちろん。貴方は私の悪役。私は貴方の悪役。
「たちが悪いな。こんな話をすると殺しづらくなるじゃないか」
—じゃあ、やめる?
「そういうわけにもいかないってわかってるんだろう」
—まあね。だから、さあ、早く終わらせて?
「勇者として、か」
—魔王をね。
「…」
—…。
「ごめん」
ぶすり。勇者は聖剣を魔王に突き刺した。
—あっ、あ。いたい。
「…言い残したことは?」
—うーん。ありがとう、かな。
「ありがとう?」
—魔王として生まれた私の運命を終わらせてくれて、ってことで。
「…君は…」
—…あなたで…よかった。
魔王は事切れた。
かつて同じ時を生きて、
いつからか違う時を生きて、
僕は君の運命を終わらせた。
少年はもう何も言わない少女を抱きしめ、涙をこぼした。
「お疲れさま。君は…ちゃんと役目を果たしたよ」
人が望んだ平和の理想。
僕が願った夢幻の理想。
君が描いた結末の理想。
結局は人が望む結末を迎えた。
でも、僕は君の理想の悪役になれていたのなら、それでいい。
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