目の前にサラダが出てくる。
レタス、カイワレ、紫たまねぎ。
前菜というには少し小さいが、小皿の上に雑然と散らばった新鮮味あふれる野菜に、食欲をそそられる。
わたしはドレッシングを少し多めにかけると、嬉々として野菜たちを口に放り込んだ。
ドレッシングの味とレタスの瑞々しい歯ごたえが、舌の上に広がる。
刹那、強烈な違和感が襲った。
それは不快感となって沁み込み、わたしの脳ミソに嫌悪と屈辱とを植え付ける。
そう、きゅうりだ。
きゅうりにはあまり味がない。
それにもかかわらず、その水臭さは圧倒的な存在感を持ち、サラダそのものを巻き込んでいく。
俺のかわいいかわいい野菜たちはいまや、どれもキューカンバーテイストに染まってしまっている。
慌ててコップを引き寄せ、その水とともに総てのきゅうりを飲み下す。
だが、もう遅い。
あの無邪気だったレタスやカイワレの姿はもうどこにもない。
ドレッシングは一切の輝きを失い、ドロドロの姿で地を這うだけ。
そこに広がっているのは、きゅうりに犯し尽くされた、空虚な白夜の荒野だ。
俺は二度と希望を取り戻すことはない。
そう、俺の夕食は、きゅうりに殺されるのだ。
俺は絶対に許してはならない。あの残虐非道な、味の死神の存在を。
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