この日この時代に良いも悪いも存在しない。いるのは普通の人だけ。悲しいことだ。だから君が善い人になり僕が悪い人になるんだ。わかったね?
こうして役割が分かれた。僕は悪い人。伊吹は善い人。お互いに顔も知らないんだけど。
どちらがいいのかということはじきに分かる。
朱に交われば赤くなるという言葉があるように一人僕らの様な極端な人間がいると、その周りはすぐに染まってしまう。だからすぐにわかるように世界は二極化してしまうのである。僕はそう予測している。伊吹も僕もすぐ仲間が増えるだろう。
最初僕は悩んだ。そもそも悪人ってなんだ?善人ってなんだ?これは分からないかもしれないが善人よりも悪人のほうが悩むもんなんだ。やはり性善説が正しいのかもしれない。とりあえず世間的に悪いことをしてみた。悪の仲間なんてすぐにできるものですぐに悪事なんてはたらけた。強盗、窃盗、殺人。でもなにか胸の中がすっとしない。これで悪事を働いた気にはならなかったのだ。
なぜなのだろう?僕はとことん悪人にはなれないのだろうか?
伊吹。私は善い人になるという使命を与えられ世に放たれた。善い人か。どのような人なんだろう。悲しいけど私はもともと善い人というわけではなさそうなの。電車で立ってるおばあちゃんを見ても無感情。こういう時に席を譲ったりするのが善人のようね。私が善行をはたらいても、周りには善人が増えない。これも悲しいことね。周りの人が私を見ているけど何も変わる気がしないの。周りの人はくすぶった普通の人のまま。苦しい。でもほんとの善人はこんなこと考えないんでしょうね。善人なんていないけど。つらくて悲しい。
俺はあの男の仲間だ。あの男はとことん悪い人になろうとしている。それがこちらにも伝わってくるんだ。悲しくないのか。そう思ったりもする。ぼくにはあんなストイックなことはできないからね。強盗をするにしても店には何も残さない。窃盗とか言ってるけどその人には何も残らない。殺人じゃない消滅だ。でも俺はこの人のそういうところにひかれてこの道に入ってしまったんだ。今が一番楽しくて・・・。
そんなある日電車に乗っていた時のこと。俺の隣の男がおばあちゃんに席を譲っていた。そして次の駅で席が空くと座りその次の駅でまた老人が乗ってくるとまた席を譲っていた。あの人は何がしたいのだろう?無理やりに善行を働いているように見える。まるで何かに縛られているかのようだ。その点では俺に似ているのかもしれない。良い人になりたいと願いすぎるあまりこうなってしまうのだろうか。じゃあじきにあの人もこのような哀れな姿になってしまうのかもしれない。
当然悪事をするとそれを取り締まろうとする機関が出てくる。しかし皆染まってしまうため僕は捕まる心配なんて全くしなくてもいい。だから僕は悪事を働いていく。
私がいいことをする意味なんてあるのかな。そういう疑問しか最近出てこなくて、苦しいの。仲間ができないのがこんなにつらいことだなんて思わなかった。だから私は死ぬことにします。その前に一つ善行を働くとしましょうか。使命ですからね。
数日後。二人は何故か・・・偶然にも・・・同じ新宿に現れた。
僕はもう面倒だからここら辺のやつを消し飛ばすことにしよう。最大の悪事。気づかれても警察に仲間がいることで責任を負わない。抜け道。
私は何をすればいいのかしら?これまでで最高の善行なんて・・・!
男がバッグをおいて走り出した時、伊吹は見ていた。
思わず中を見た。後50分。人がいないところに行くのは無理か・・・。どうすれば・・・。そうか逆に!!
女は中央線そして千代田線に乗りある場所に向かう。タイミングをとって突入する。爆発の寸前警備員に揉みくちゃにされながら思う。任務成功。
ニュースで男は御茶ノ水でなく別の場所で爆発が起こった事に驚く。失敗。プライドが高い男は消えることにした。しかしこれは史上最大の悪事。任務は成功である。
二人は消えた。しかしその根は残り、闘争は止まる気配をみせない。やや悪の方に傾いているようだが・・・。
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