英語なんて何の役にたつんだろう。
でも、英語を流暢に話せたらな。
そんなことを、ひとりベッドで思いました。
プレゼンテーション。
ぼくの嫌いな言葉のひとつです。
英語のプレゼン。
ぼくの最も嫌いな言葉のひとつです。
そんな大嫌いな英語プレゼン、
とうとうぼくの時間割に常駐することになりました。
こんなのが必修だなんて!
最後の希望、「あまりプレゼンをしない教官」に賭けましたが。
ネイティブでした。無理でした。
明日の朝には人前で英語をしゃべっているぼく。
想像がつきませんでした。想像したくありませんでした。
まだ、何を話すかすら考えていません。
ぼくはひとりため息をつきます。
英語なんて何の役にたつんだろう。
ああ、英語を流暢に話せたらな。
俺、国際教養学部だから。
英語でいきなりまくしたててきた彼は、
いきなり日本語に戻ってそう言いました。
英語で喋る授業が多いんだよね、国教。
だから嫌でも話せるようになるよ。
当たり前のように、でも謙虚さも含みつつ、彼は言います。
羨ましいな、と思いました。
大学にとりあえず入って無為な勉強をしているぼくと違い、
彼はきちんとなにかを身につけていたからです。
こういうことを言うのもなんですが、
学歴だったらぼくのほうが上ですし、
彼の学部も、ぼくにとっては余裕でした。入るだけなら。
けれども、どう考えても負けてるな。そう感じます。
彼はきっと英語が役にたっています。
何の役にたつか、それの答えを見いだせているだけで、
彼が格上だと思うには十分でした。
どこで巻き返されたんだろな。
ぼくの安っぽい自尊心は、
かつては自分が優位に立っていたと主張したいようでした。
わたし英会話なら得意だよ。
目の前の彼女は言いました。
3歳くらいから中学までずっとやってたから、
文法とかは駄目だけど、発音なら。
今度は劣等感を感じませんでした。
こう思ったのです。チャンスだ、と。
ぼくは彼女に練習相手を頼みました。
話すのが上手くなりたい、練習につきあってほしい、と。
彼のような世界を見てみたい、そう思ったのも本心です。
けれど、彼女と仲良くなりたい、そう思ったのも本心です。
向上心が3割、下心が7割。表には出しませんが。
笑顔で了承してくれたので、最終的に下心8割になりました。
付け焼き刃ですから、最初の授業には間に合わず、
さすがに何度も失敗を重ねました。
けれど、彼女との練習で少しずつ会話技術は向上しました。
数週間ほど特訓した後には、
ある程度は話せるようになりました。
それだけ、彼女とふたりで会話していたということにもなります。
英語を流暢に話せたら、という思いより、
あの子に気持ちをきちんと伝えられたらな、と思うようになりました。
気づけば、大学が始まってからふた月がたち、
季節は冬になり、
ぼくは彼女にプレゼントを贈りました。
満月の夜でした。
「月が綺麗ですね」とは言いませんでした。
ぼくは英語を彼女から教わっていたので。
遠回しな日本語訳なんて使わなくても、
今のぼくにはそれができました。
ぼくらが同じ指輪をはめるようになったのは少し後の話です。
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