「もう嫌だ!!!」
他に誰もいない個室の中で叫ぶ。
こんな狭い所早く抜け出してみんなと同じ世界に戻ってやる。
そう決心したのだ。
ここは自分で作った檻の中。
自分で作った檻は自分で抜け出して俺は自由になる。
親が作った弁当をトイレで食べる生活は今日でおしまいだ。


どうやら、いつも男子の誰かが俺のイスに座って昼飯を食べているらしい。
しかし、翌日、昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴っても俺は席を立たなかった。
もしかしたらその男子に「どけよ」と言われるかもしれない。
震えながら数分座っていたが、誰にも話しかけられることはなかった。
どうやら他の空き椅子を使ったようだ。
なんだ、意外とイケるじゃないか。
俺は弁当を広げ、箸で一口一口料理の味をかみしめた。
そうか。もう自分の太ももを机代わりにしなくてもいいのか。
そんな感慨に浸っていた。
しかし、それもつかの間だった。

「ねーお前有希とどれくらいヤってんの?」
「あ?週二ぐらいだけど。昨日は生でヤったわ」
「生とかwwwお前マジヤバいな」

こんな会話が全方位から聞こえてくる。
周りを見渡せば一人で食べているのは俺だけだ。
汗が噴き出す。
手が震える。
俺は弁当のふたを閉じ、手に持ってトイレへと駆け込んだ。


このままではいけない。
しかし教室で食べるにはまだ早過ぎる。
俺は学校内を探索して色々な場所で食事をとってみることにした。

次の日、4限終了と同時に俺は弁当を持って教室を飛び出し、美術室へ向かった。
美術室の扉を開けた瞬間、女子達の喋り声が聞こえてきた。
すぐ閉めて俺は踵を返し、トイレへと向かった。
おそらく美術部員だろう。
となると、他の部活が使う部屋もダメだな。
また明日に賭けよう。

次の日、俺は体育の授業が終わった後の更衣室での昼食を試みた。
いつもはそそくさと着替えて更衣室を後にするが、今日はできるだけゆっくりと着替え、皆が出るのを待った。
最後のクラスメイトが部屋を出るのを待って、俺は体操服カバンに忍ばせていた弁当と水筒を取り出して食べ始めた。
少々汗臭い部屋だが静かで悪くない場所だ。
しかし、その静寂もすぐ破られた。
ガチャっというドアノブの音と共に、サッカー部の男2人と女子マネが入ってきた。
その手に弁当箱はない。二つのゴムだけだ。
俺は俯きながら更衣室横のトイレに逃げ込んだ。

次の日の昼、俺は校庭に出た。
さすがに遠足でもないし外で食べるバカップルもいないだろう。
しかし、俺は外に出て気づいた。
ここは鹿児島だ。
桜島がある。
火山灰が食べ物に入る。
俺はいつもと同じトイレへと向かった。

次の日も、その次の日も俺は学校内を歩き回った。
職員室の隅でも食べた。
勿論教師に見つかって怒られた。
空き教室でも食べた。
先客のぼっち飯生徒と2人きりで気まずかった。
廊下でも食べた。
どう考えても恥ずかしかった。
もう打つ手がない。
どうしたものか。
とぼとぼ歩いていると、TOILETの文字が目に入った。
ここは特別教室が多いフロア。昼休みの人の出入りは少ない。
授業が終わってから数分はやはり人が多い。そして皆が昼飯を食べ終わる昼休み開始20分後からも人が増える。
この約15分の間が俺のゴールデンタイムなのだ。
俺は弁当箱を片手にトイレの個室に入る。
寂しくないかって?
大丈夫。
僕は1人じゃない。
これを読んでる君たちがどこかのトイレにいてくれるから。


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