「なぁ、孤独ってどう思う?」
「は?」
「だから孤独ってどう思うかって」
「急に何よ?頭、打ち付けたわけ?」
「いや、ほらテレビでちょうど孤独死の問題をやってるからさ」
「———」
「んだよてめぇ!ハトマメみたいな顔しやがって!」
「あ、あんたが鳩に豆鉄砲って言葉を知ってる上に、さも当然のように略してきた!さも当然のように!」
「あー!略して悪かったよ!!だから言うな!二回も言うな!!」
「よもやあんたが社会問題に目を向けようとは…明日は雨かな嵐かな」
「いや、単なる孤独についてだから」
「孤独ねぇ…うーん…あっ、孤独というとウサギってさみしいと死んじゃうんだってね」
「水につけると死ぬってのも聞いたことあるぞ」
「そりゃ生きてるんですもの、溺死するわよ」
「じゃなくて体温が下がりすぎて死ぬんだってよ」
「あんた、よくそんなこと知ってるわね」
「小学校の時に理科の先生が言ってた」
「あれ?あの変態教師、そんなこと言ってたっけ?」
「確かうさぎ小屋そうじの係ん時だから知らねぇだろ」
「まぁぶっちゃけ小学校の頃とか覚えてないけど」
「まぁな…そうだ、うさぎで思い出したんだが」
「うん?」
「あいつらって性欲強いらしいな」
「あら?まるであなたじゃないの」
「てめぇ!あたしのどこがビッチじゃごらぁ!!」
「叫ばない叫ばない」
「うっ、あ、すまん…」
「ものわかりのいい娼婦ね」
「いい加減にしろよ、この女狐ぇ!あたしのはちゃんと膜のついてる新品未使用…!で、ゴザイマスデスヨ」
「カミングアウトごくろーさん」
「くぅ〜!!忘れろ!今すぐ忘れるんだ!!」
「揺〜さ〜ぶ〜る〜な〜!揺さぶるのだけはやめろー」
「…どうせお前も処女なんだろ?」
「さぁどうでしょ?」
「ちょ!どーゆーことだよ!」
「私、彼氏いたし?てかそもそもあんたにもいたじゃん?イケメン高学歴という良物件がさ」
「ぜってー信じねぇからな…ん?あいつ?ありゃわけあり物件だった」
「?どういうこと?」
「婚前交渉、さらにキスもダメ、その上マザコン」
「あ、それはないわ」
「だろ?せっかく街でハンティングしたのに…」
「…やっぱビッチじゃん」
「るせー!あたしだって早くこれ捨てたいんだよ!」
「処女は貴重よ?ダイヤの価値はあるわ」
「ダイヤなんざどこぞの富豪が買い占めて値段を統制してるおかげで異様に値のはる石ころじゃねぇか」
「あんた、無駄に博識ね」
「今読んでる週刊誌に書いてる」
「通りで統制とか難しい言葉使ってくると思った」
「お前、あたしをナメてんだろ」
「べっつに?あ、見てよ。ウサギについてなんだけど」
「さっきから何をしてるのかと思ったらうさぎを調べてたのか」
「あわよくばウサギのセックス動画とかあるかと思ってね」
「んなもん見てどうすんだよ!」
「案外面白いものよ?象とかスゴいし…あ、ここ見て」
「…ウサギの性欲は凄まじく、メスが出血しても構わず腰を振り続けます、か…へぇ」
「下手に知識ある男もこんな感じなのよねぇ」
「何知ったような口ぶりしてんだよ!」
「だから彼氏いたし〜?」
「あたしだっていたわ!てかお前と知り合ってから毎年欠かさず二人だけのクリスマスを送ってたじゃねぇか!」
「おい」
「クリスマスだけじゃない!花見も!海も!全部二人っきりだったろうが!そんなお前に彼氏とよろしくヤる時などなかったはずだ!!」
「やめろ!!!…空しくなる」
「え、あ、す、スミマセンデシタ」
「わかればよろしい…ん?ちょっ、これ見てよ」
「ついにうさぎの動画を見つけたのか?」
「違うわボケ。ここの行」
「…ウサギは一般的に寂しがりやだと言いますが、実際には孤独に強く、独り暮らしの方にも飼育可能です」
「知らなかったわ…」
「開いた口がふさがらないな…」
「鳩豆ね」
「ハトマメだな」
「…ねぇ、考えてること当ててあげようか?」
「奇遇だな、あたしも当てれる気がするんだ」
「「ウナギ食べたい」」
「よし、晩飯は外食すっか」
「そうしましょ、今からウナギ買いに行くの面倒だし」
「通りの角っこのでいいよな?」
「あそこのが安くておいしいじゃない」
「だな、忘れ物ないな?」
「あんた、これ。帰り寒くなるだろうからジャンパー羽織ってきなさい」
「ん、わりぃ。…よし、じゃあ行くか」
「戸締まりしたわね?」
「したした。んじゃいってきまーす、と」
—バタン
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