お兄ちゃん。
今日からお兄ちゃんの観察日記をつけることにしたの。
お兄ちゃんともっと仲良くなりたいから。
よろしくね。
お兄ちゃん。
最近、大学で誰ともしゃべらないでいることが多くなったね。
まあ、当たり前だよね。大学のくだらない連中なんかに、お兄ちゃんのよさは理解できないんだよね。
わたしは、お兄ちゃんのかっこいいところも、頭いいところも、いっぱい知ってるからね。
お兄ちゃん。
大学でエアコンが点きはじめたんだね。
お兄ちゃんはエアコンに弱いから、ちょっと心配。
体に気をつけてね。わたしも気をつけるけど。
お兄ちゃん、今日のお昼に食べた牛丼、美味しかったね。
また食べよう。
お兄ちゃん。
最近、ずっと大学でタチバナさんのこと見てるね。スキなんでしょ?
タチバナさんと付き合いたいの?
わたしは、あの子じゃお兄ちゃんには釣り合わないと思うけど、お兄ちゃんががんばるなら、わたしは応援するからね。
お兄ちゃん。
あんなにうるさく舌打ちしてたら、へんな人だと思われるよ?
くだらない笑い声とかにイライラするのはわかるけど、できるだけ我慢したほうがいいと思う。
お兄ちゃん。
今日、クラスコンパがあるんだってね。
でもお兄ちゃんは行かないよね。あんなの、楽しくもなんともないし。
第一、メールが回って来なかったもんね。ようやくみんな、お兄ちゃんの人となりがわかってきたのかな?
お兄ちゃん。
今日は残念だったね。でも気を落としちゃダメだよ。
あの子、お兄ちゃんのこと、目の前で『気持ち悪い』なんて言ったんだよ?
正常な神経じゃないよ。きっとお兄ちゃん、見る目がなかったのよ。
お兄ちゃんのほんとの良さがわかるのは、わたしだけ。そうでしょ?
お兄ちゃん、今日はどうしたの?
あのチャラ男がいきなり話しかけてきて、馴れ馴れしいからって、何も殴りかからなくてもよかったのに。
でも、殴り返されたりしなくてよかったね。怪我しちゃったら大変だもん。
みんなお兄ちゃんのこと、頭がおかしいって言ってた。悔しいね。ほんとうに、悔しい。
お兄ちゃん、今日のお昼に食べたオムライス、美味しかったね。
また食べよう。
お兄ちゃん。
あんまり夜中に暴れると、お母さんたちが心配するよ。
ストレスが溜まってるんだよね。わたしが全部受け止めてあげるから、全部吐き出してもいいよ。
お兄ちゃん。
最近、お友達の間でお兄ちゃんのことを『ショウガイ』って呼ぶのが流行ってるみたいだね。
でも、あんな蛆虫どもの言うことなんて、気にすることないのよ。
あんな蛆虫ども、捻り潰してやればいいんだから。気にしなくてもいいの。
お兄ちゃん。
カウンセラーの先生の話、どうだった?
わたしはね、すっごいくだらないと思った。
わたしからお兄ちゃんを引き剥がすなんて、馬鹿げてると思う。
お兄ちゃんは自分の生きたいように生きてるだけなのに。なんで異物扱いされなきゃいけないの?絶対におかしいよ。
お兄ちゃん…わたしもう、嫌になっちゃった。
お兄ちゃん、ひとつになろう。
お兄ちゃんとわたしはひとつになるの。
生きるのはべつべつだけど、死んでしまうのはいっしょ。
あいつらみーんな、お兄ちゃんを消す気でいる。そんなのわたし、絶対に嫌だから。
だから、もう我慢するのはやめにしよ?
お兄ちゃんには、わたしがいないとダメ。わたしが永遠に、ついていてあげるから。
ね?他のものなんてなんにもいらないでしょ。
だからね。サヨナラしよう。
お兄ちゃんと一緒に生まれてきて、一緒に過ごしてきて、これからもいつまでも一緒。
わたしね、すっごく幸せ。
「この度はご愁傷様でした」
「ありがとうございます…」
「このメモ書きが、優美さんの部屋にあったんですね?」
「そうです」
「わかりました、お預かりします。それで、このお兄さんは、今どちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「居ません…」
「えっ?」
「兄など、最初から居ません。優美は一人っ子でしたから」
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