小学校低学年の頃だっただろうか。
一人学校帰りに草むらで立ち小便をしていた時にハチに刺された。
突き刺すような痛み、体の奥底から湧き上がる痺れ、それら全てが当時の僕には初めての感覚だった。
「ハチ=毒=死ぬ」と短絡的に考えていたし、実際刺された部分が熱を帯びていくのはまさに毒が広がるような感じがして怖かった。
ましてやその刺された部分が、小便をするために露出していた陰茎だったのだから。
小便を出している最中に刺されたものだから、焦って小便は飛び散り手やズボンも汚れた。
しかし、そんなことに構う余裕もなく、僕は泣き出しながら家へと走った。
家の扉を開け「ただいま」も言わず、台所で夕飯の下ごしらえをしていた母親に
「お母さん! 死ぬ! 死ぬ!」と言いながら、刺されて膨れた陰茎を見せた。
すると母も自分以上にパニックになってしまい
「え、あんたどうしたのそれ!! ちょっと!!!」
あまり何と言っていたかは覚えてないが、とにかく見たことない状況に狼狽していたことは覚えてる。
僕は泣きながらハチに刺されたことを伝えると
「と、とりあえず病院行くよ! それと…これ!」
そう言いながら、冷凍庫から氷を取り出し、それをそのまま俺の股間に直に当ててきた。
「ンギャアーーーーーーー!!!」
ハチに刺されたのと同じくらいの痛みとなって、冷たさが突き刺さった。
母は僕の悲鳴にも構わずなおも氷を強く、股間に押し付けてくる。
「ほらさっさと冷やしなさい! 腫れてるのはとにかく冷やすんだから! お母さん、病院に行く準備するから自分で冷やしといて!」
母はビニール袋に氷を詰め、それを僕に渡した。
嫌だったが、放っておくと死ぬかもしれないと思い込んでいたので恐る恐るもう一度股間に氷を当てると、直でない分ひんやりとした柔らかい冷たさだった。
その感触は新鮮で、でもハチや先ほどの直に当てた氷とは違う感触だった。
何となくムズムズする、くすぐったいような。
その出来事が「ソレ」に目覚めるきっかけだった。
その後病院では塗り薬をもらっただけで、数日後には腫れも引いた。
しかし、それ以降僕は「ソレ」に傾倒していってしまう。
家に誰もいない時を見計らって、自分の股間にそっと氷を当てて快楽に浸る行為だ。
氷を当てる最初の瞬間は冷たさにたじろぐが、それに慣れると次第に気持ちよさに変わる。
当初はそれが自慰行為だという認識はなかったが、そういう知識を得た小学校高学年頃からは射精を伴う「コオニー」となっていた。
自慰をする際に冷凍庫から氷を取り出し、終わったら手を洗うついでに流しに捨てれば証拠も残らない。
いつしか俺は「氷を2つの袋に詰め、パイズリのように挟んでしごく」「溶けてきた氷で亀頭をなぞって刺激を与える」などバリエーションを増やしながら「コオニー」性活を充実させていった。
20歳を過ぎた今でも「ソレ」は続いていて、一人暮らしの部屋には氷が常備されている。
スーパーで高い氷を買ってみて試してみたが、あまり変わりなかった。
ただ、製氷機の型を変えてコトに及ぶのは楽しかった。
真ん中に穴を開けられる製氷機を見つけたときには、まさに僕のためにあるように思えたが氷のサイズが足りず、挿入して楽しむことは叶わなかった。
ドリンクバーの機械の製氷機でよくある、一つ一つが小さい氷の中へ出し入れするのが一番気持ち良かった。
大学の友人たちは、そんな裏事情も知らずに僕の家に来ては色んな形の氷で酒を飲んで楽しんでいた。
そんなある日、彼女の明里と僕の家で食事をすることになった。
彼女はバイト先で知り合った1個上の先輩で、とても面倒見がよく優しいところに惹かれていた。
彼女は料理が得意で、僕に振る舞ってくれると言ってスーパーの袋を両手に持ちながら部屋を訪ねてきた。
事実、その手料理はとても美味しくお世辞なしに
「今まで食べたご飯の中で一番おいしいよ」
なんて嘘くさい言葉も思わず出てしまった。
そんな言葉でも
「ホントに~? でも、嬉しいなぁ」
と素直に受け取ってくれる彼女がとても愛おしかった。
食後はテレビを見ながら軽く酒を飲んでいた。
二人とも酒が大好きという訳ではないので、チューハイを軽く飲む程度だが。
僕は冷凍庫から氷を取り出してグラスに入れ、
「水道水は塩素とかのせいで気泡が多いから、天然水で作ると綺麗な氷になるんだよ」
などと氷のウンチクを言いながら彼女に手渡した。
彼女は興味津々で缶チューハイをグラスに注ぎ、一口飲んで
「ん~確かに、缶で飲むよりなんか美味しい気がする? あはは、気のせいなのにね」
そう笑う彼女を見ていると、僕は衝動的にキスしてしまった。
甘い酒の匂いと、控えめな香水の匂いで幸福感に満たされていく。
突然のことだったが、彼女はそれを拒否することなく受け入れる。
これまでもキスをしたことはあったが、こういうキスは初めてだった。
しばらくして、唇を離すと彼女の頬は赤く染まっていた。
恐らく僕もそうだろう。
それでも僕は男の意地で自分がリードしなければと思い
「…いい?」
と尋ねると彼女は一拍おいて頷きながら
「……うん」
と答えた。
「えっと…あ、お風呂使っていいよ。タオル出しとくね」
「うん、じゃあ使うね」
風呂場にポーチを持って向かう彼女の背中を見ながら、飲みかけのチューハイを飲み干す。
家に来る時点で期待はしていたが、それは彼女も一緒だった。
まずは、そのことに安心していた。
しかしそれ以上に緊張が収まらない。
彼女と付き合って半年経つが、セックスは初めてだ。
そもそも誰ともしたことがない完全なる未経験だ。
更に、人と違う特殊なオナニーをしている自覚はあったので、上手くできるのかという不安も大きい。
その点は一応、手だけでしごいても勃起することも確認はしたのだが不安は消えない。
一応ネットでコンドームの付け方を復習したり落ち着かずに過ごしていると、タオルを巻いた彼女が風呂から出てきた。
「あーこのTシャツ着て良いよ、あんまり使ってないから」
そう言いながら新品のシャツを渡し、自分も浴場へ向かった。
風呂に入って少し落ち着こうかと思ったが、濡れている風呂場を見て
「明里もさっきここで裸で……」などと考えてしまい全く落ち着かなかった。
風呂を出ると、彼女はベッドに背中を預けながらテレビを見ながら待っていた。
まだ着たことはないものの、自分の服を彼女が着ていることに少しドキッとする。
腕が触れ合う距離で横に座り、指同士を絡める。
すると彼女もそれに応じてくれる。
俺は先ほどより少し激しくキスを仕掛け、彼女の口の中を舌で撫でる。
彼女は少し肩を震わせたが、同じように舌を突き出して僕の口の中にねじ込む。
二人とも息が乱れるほど唾液の交換を続ける。
途中でふと目を開けると、彼女の顔が間近ではっきり見えて、電気を消していなかったことに気づいた。
俺はそっと唇を離し「ちょっと待ってて」と言って電気を消す。
部屋はテレビから漏れる光だけとなったが、それが丁度良い気がした。
テレビの音だけ消してベッドに入ると、彼女もすぐ横に来てくれた。
僕達はさっきよりも更に激しくキスをして、そして彼女の服を脱がした。
程よく膨らんだ胸とくびれの女性的なラインは、セクシーというより美しささえ感じた。
たまらず、それでもできるだけ優しく胸を触ると彼女は「あっ…」とかすかに吐息を漏らした。
「明里、すごく可愛い」
「ありがと…圭太もカッコいいし、大好き」
そんな歯の浮くようなやり取りをしながら、俺は舌を彼女の乳頭に這わす。
舌の上で転がしたり、吸ったりしていると少しずつ乳首が硬くなってくる。
それが彼女が感じてくれている証拠のようで安心する。
舐めながら彼女の陰部に手を当てて優しく触る。
「んんっ、はぁっ」
既に少し湿っているそこを触ると、先ほどより激しく彼女は声を漏らす。
全てが本気の反応ではないだろうがそれでも嬉しくなる。
しばらく手や舌で彼女の肢体をまさぐっていたが、時機を見計らい
「僕のも触ってもらっていい?」
と欲望を口にする。
彼女は「うん」と小さく答え、僕の陰部を握る。
ひんやりとした彼女の手に握られ思わず「あっ」と情けない声をあげてしまう。
「ごめん、痛かった?」
「いや、全然。むしろ気持ち良いから続けて」
事実、その刺激がとても気持ちよく言葉に嘘はなかった。
慣れなさそうな手つきだが、それも気持ち良かったりする。
それに応えるように俺も彼女の感じる部分を触り合ったり、唇を重ねたりする。
しばらく続けていると彼女から
「圭太…何かしてほしいことある?」
と尋ねられた。
「何か?」
「うん。やっぱり口とかでやって欲しいのかな? っておもって……」
彼女は恥ずかしそうに声を尻すぼみにさせながら答える。
「まぁえっと、うん、イヤじゃなきゃ、口で」
「大丈夫、自信ないけどやってみるね」
ベッドが狭いので、俺は起き上がって枕側の壁に背中を預け彼女はうつぶせのような感じで寝転がる。
そのまま硬くなった肉棒の先を少し舐め、軽く口の中にふくむと、口内の温かさが肉棒に伝わる。
彼女なりに刺激を与えてくれるが……正直、気持ち良さより違和感が勝ってしまった。
危惧していたことが起きてしまった。
気持ち良くないのは、彼女の技術のせいではない。
僕が冷たい刺激でないと気持ちよくなれないから、つまり温かい彼女の口の中が受け入れられない。
事実、彼女の言ってしまえば拙い手コキでも気持ち良かったのだから。
せっかく彼女が頑張ってくれているのに。
勃たせなければ。
勃たねば。
その想いとは裏腹に、硬さを失いしぼんでいって、みるみるうちに通常時の大きさになってしまった。
彼女もそのこと気付いたようで、顔を僕の股間から離して見つめている。
「えっと……ごめん」
他に言葉が出ず、俺は謝ってしまった。
「いや、私の方こそごめん……私、慣れてないから……」
しばし気まずい時間が流れる。
今日はやめようか、そう口にしようとした瞬間、
「もっとやりたい事ない? 遠慮せずに言っていいよ?」
彼女は僕の目をじっと見つめながらそう聞いてきた。
「え…?」
「出来るかは分からないけど、圭太に気持ち良くなって欲しいから。わ、わたしも気持ちよくしてもらったし…」
彼女は僕を責めるでもなく、自分を責めるでもなくそう言ってくれた。
僕は普段から彼女の優しさに救われてきたが、こんな時も同じだった。
「えーっと、うーん…」
しかし、その優しさに甘えるかどうか決めきれなかった。
自分の希望を言えば引かれる可能性だってある。
彼女を好きだからこそ、言わない方が良いこともあるはずだ。
「大丈夫、私は笑ったり引いたりしないよ」
彼女は僕を抱きしめながらそう耳元でささやいた。
明里の温かい体温が、僕を包んでいる。
反射的に僕も抱き返すと、より強く抱きしめてきた。
同時に、彼女の柔らかい部分が身体に押し付けられる。
そのことを意識すると、肉棒が硬くなり熱を帯びてくることを感じる。
それは彼女にも強く当たっている。
当然気付かれたようで
「あれ? したかったことってハグなの?」
彼女はいっそう僕を強く抱きしめながら聞いてくる。
「いや、違ったけどなぁ。でも、もう大丈夫そうだから……入れていい?」
「うん、お願い」
僕がベッドの脇からコンドームを取り出している間に、彼女は足を閉じてベッドに寝転んだ。
「えっと、もしかしたら血が出るかもだから、使っていいタオルとかある? ごめん、言うタイミングが掴めなくて」
「うん、ちょっと待ってて」
予期していない申し出だったが、新品のタオルがあったことを思い出してそれをシーツの上に敷く。
全ての準備が整うと軽く深呼吸し、彼女にキスをする。
そして閉じた足を優しく開いて、ゆっくり自分の肉棒をねじ込む。
それが少しずつ入っていくにつれて彼女は表情をゆがめていき、身体を震わせた。
「っ…」
「ごめん、痛い?」
「うん、ちょっとね。でも、今以上に痛くならなさそうだから、平気だよ」
「わかった、でも痛かったら言ってね」
彼女の言葉を信じてそのまま腰を動かすと、そのまま根元まで入った。
その瞬間、僕も彼女も一息ついて少し表情が緩む。
彼女の膣内は、想像していたよりも温かかった。
熱いとさえ形容できるかもしれない。
その温度のせいで、さっきみたいに萎えてしまうのではないかと少し心配だったが、今は彼女の温もりが心地良かった。
それはきっと、誰でもない明里が相手だからなのだろう。
永遠に包まれていたいとさえ感じた。
しかし、温かい液体が中から滴り落ちてきた。
「やっぱり、さっきの痛いのって……ごめん、ベッド汚してない?」
「うん、大丈夫そう。一回抜くね」
別のタオルで彼女の陰部を拭く。
彼女は「自分でやるよ」と言ったが、僕がしてあげたかった。
そして、血が出てこなくなったことを確認してもう一度愛撫をしてから改めて挿入する。
見よう見まねで体位を変えながら、お互いの気持ち良くなるやり方を探しあい、愛を確かめ合った。
繋がっている部分から、徐々に彼女の体温が熱くなっていくことを感じた。
それに呼応するように僕のモノも硬く、熱くなっていった。
しばらくして、正常位で唇を重ねながら僕は果てた。
行為を終えた後、僕らは疲れて寝転がっていた。
どうだった?と聞くのは怖くて、どう話を切り出すか悩んでいると彼女の方が先に口を開いた。
「ねぇねぇ、さっきして欲しかったことって何だったの?」
僕が萎えてしまった後の時の話だ。
お互いをさらけ出した行為の後だからだろうか、僕は隠さず言ってしまった。
「実は、口の中に氷を入れたまま舐めて欲しかったんだよ」
「え、氷を? もっと変なの想像しちゃってた」
「変なのってどんな?」
「やだー言いたくない。でも、何で氷なの? そういう人多いのかな?」
「どうだろ? あんまりいないと思うけど。それより、最初痛そうだったけど大丈夫だった?」
話が長引くと墓穴を掘りそうなので、話題を変えることにした。
「うん、最初だけだったよ。例えるなら…」
「例えるなら?」
「ハチに刺された時みたいな? ちくっと刺すような痛みがして、その後なんか身体全体が熱くなるようなそんな感じ。子供の時に一回刺された時だけどね」
僕はそれを聞いて涙が出るほど笑ってしまい、その理由を彼女にしつこく聞かれたのだった。
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