ここは氷の国。
あなたのような火がいてはいけない場所なのです。

そこは温かな氷に覆われた国。
わたしがいてはいけない場所。
冷たい炎を心に灯した私が、氷に触れたらみんなとけてしまうから。
氷がとけて水になったら私の火も消されてしまうから。

みんなもはじめは炎を灯していたのだよ。おばあさんが言っていた。
でもね、しまいには氷の中に炎を閉じ込めてしまうのさ、って。
おばあさんも、さいごはとけて消えちゃったんだ。

こっそり氷の国に入った私を誰もが見て見ぬふりをする。
きらきらと輝く氷に目を輝かせて私はそっと触ってみたの。
氷はとってもとっても冷たくて、私の手が燃えてしまいそうだった。
それまで知らんぷりだったのに、急にみんなが怖い目になってとてもびっくりしたわ。
それでも氷に触れ続けていたら指先からどんどん火が広がって、あっという間にとけちゃった。
みんなはもうどこかへ行ってしまったようね。元からいなかったみたい。

私は氷になった。
ただ熱いだけの、とけない氷になっていた。
窓に映った私の姿はもちろん透明で見えやしなかった。
そう、氷だから。
なぁんだ。わたしだってここにいていいんじゃない。

私は氷の国の門番。
ゆらゆらと揺れる、小さな小さな火がこっちを見ていた。
あなたは誰?
火はとってもとても温かくて、照らされているだけでとけてしまいそうだった。

きらきらと輝く火に私は目を瞑って首を振るしかないの。
そして、白いため息を吐きながら私は火に語りかけるのよ。

ここは氷の国。
あなたのような火がいてはいけない場所なのです。



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