「いやこれどうだあ!? イマイチじゃねーか!?」
「どしたの?」
「モモ、これどうよ? マツ毛。おかしくない?」
「そんなこと……あー言われてみれば。カールしすぎ?」
「そうだよなー。いやでもどうしようもないわ」
「まあ気にするほどじゃないんじゃない?」
「しゃーないわな」
「っていうか、今日のネイルかわいいよね」
「あ、気づいたー!? そうそう、変えてみたんよ」
「チカは明るい色のほうが似合うよ」
「へへへ、あざーす。んじゃはい、チーズっと……よし、いい感じだ。モモ、アンタは撮らないの?」
「あ、実は私、アカウント消しちゃった」
「えー!? なんで!? もったいねえ!」
「えーっと……実は親にバレそうになっちゃって。ヤバいって思って」
「まじかあ! キツイなそれ。いやでもマジもったいねえわ」
「いやいや」
「だってアンタ結構人気だったじゃん。てかアタシも思うもん、めっちゃ写真写りいいなって」
「まあそう言ってくれるのは嬉しいけど。あ、これ美味しいね」
「え、どれ?」
「これ。なんだっけ、日向夏チョコムースかな」
「ええ!?合うんかそれ」
「合う合う。食べてみなって」
「え、いいんか!?」
「一口だけね。いやちょっと待って、デカいってその一口! ちょっと! 食べすぎだって!」

◇16:47 ドトールコーヒーショップ淀屋橋店
アイスコーヒーとミルクチョコムース~日向夏~を注文。
いつも通り、友達の北見さんとおしゃれやスイーツの話を楽しんだ。

「あ、藤枝さん。こんちは」
「!? あ、も、桃山さん?」
「モモでいいよ。ってか、電車一緒だったんだ。知らなかったな」
「え、あ、じゃ、じゃあ私も……」
「ああ、下の名前とかのほうがいいかな? じゃあ、雪奈ちゃん。よろしく」
「えっ、知ってたの?」
「知ってるよ。いっつも優秀者の欄に載ってるじゃん。数学とか凄い得意だよね」
「あ、その、勉強くらいしかすることがないから……」
「いやいや、自慢していいでしょあれは。ところで何聴いてたの?」
「あ、音楽じゃなくて……」
「ああ、動画?」
「うん。面白くて、暇なときいつも見てて」
「あー、ジャルジャルタワーかぁ。おもろいよね、独特で」
「えっ、見てるの?」
「まあときどきだけどね。雪奈ちゃんに比べたら多分、全然シロウト」
「あ、そうなんだ」
「なんだったかなー、こないだ見たの。あ、『急に冷める奴』かな。あれが面白かったなぁ」
「あ、それ私も好き」
「なんかツッコミが自然なのが面白いよね」
「そうかも。片方は異常者なんだけど、もう片方は現実の人間がそのままコントに入り込んだような感じで、それで演技もうまいから妙なリアルさがあって、それがシュールっていうか」
「あ、そうそう! 凄いね、ホントに好きなんだね! なにかオススメあったら教えてよ」
「オススメかぁ……えーっと、あ、電車来た」
「ホントだ。丁度いいや。電車の中で見せてよ」
「あ、うん」

◇18:38 淀屋橋駅ホーム
クラスメイトの藤枝さんとばったり出くわした。
ちゃんと話したことはなかったが、彼女の好きなお笑い芸人の話で盛り上がった。
少し距離が縮まったかもしれない。

「だーれー……だっ!」
「あのな、モモ。最初の『だ』の時点で聞こえてんだよ」
「それでも付き合ってくれるんだよねー、アカネは」
「大人しくしてたほうが結果的に早いって知ってるからな」
「ふーーん。そっちは部活帰り?」
「ああ。ちょっと小腹が空いたんで、握り飯でもと思ってな。あとスピリッツを買いに」
「うわー、女子力ないよそれ。『握り飯』っていう言い方がまずないね」
「私の勝手だろ。お前は相変わらずくだらないことを気にしてるな」
「それが私の青春なんですー」
「はっ。自分で言うことかよ」
「テニスの方はどうなの? 調子いい?」
「まあ上々かな。最近はバックでも決められるようになってきたし」
「えー、なんか悩んでてよ。相談とかしてよー」
「なんだよそれ。で、お前はなんか買うのか?」
「そうだなー、飲み物買ってこうかな。暑いし公園でなんか飲んで涼みたいな」
「あー、あそこ風通しいいしな」
「そうそう。アカネも一緒にどう?」
「いや、私チャリだし。方向も違うだろ」
「つれないなー」
「じゃ、私はもう決まったから。またな」
「えー、待ってよ。一緒に並ぼうよー」
「ヤだよ。めんどくせーな」

◇19:05 枚方市駅1F アンスリー枚方店
駅を出て歩いていると幼馴染の若佐さんがコンビニをうろついているのを見かけた。
後ろから忍び寄って話しかけ、しばらく談笑した後、はちみつレモンを買って店を出る。
若佐さんといる時が一番自然体で話せている気がする。

「……もしもし?」
「今? まあ、フツーに道端。駅から出たとこだけど」
「うるさくない? 大丈夫?」
「いやいや、大丈夫だって。いつもこの時間通ってるし」
「チカと遊んでて……そう、あの色黒の」
「そう、ドトールで。日向夏チョコムースっていうのがあって、それ頼んだんだけど、結構美味しかったなあ」
「あ、そうそう。アレ観たよ。こないだ言ってた」
「そうそう、『リメンバー・ミー』。凄い良かったなー。泣いちゃったもん」
「いや、普段は全然。フィクションで泣いたの自体凄い久しぶりかも」
「音楽も凄い良くて。まあ音楽ものだから力を入れるのはそりゃそうなんだろうけど、なんかジーンときちゃった」
「音楽? 結構聴くよ、元々。まあ、洋楽はあんまり聴いたことないんだけど」
「え、そうなの? あー、なるほどね。あー、それはちょっと興味あるかも」
「え、ホント? 聴きたい聴きたい。そうだね、じゃあ明日学校で」
「うわー、ありがとー。あ、それで、かけてきた用件って……」
「え、土曜? うん、空いてるよ。うん。いいよいいよ、行きたい!」
「いやいやいいよ、払うって。え、ホントに? いいの?」
「……うん、嬉しい。楽しみにしてる」
「うん。じゃあ、また明日」
「……ヨッシャ」

◇19:26 枚方市駅~岡東中央公園
『何者か』から着信があって、歩きながら通話をした。
映画や音楽の話で盛り上がった。
普段からオススメなど色々教えてもらっているようだが一体誰だろうか。
まさか男? そんなはずはないと思うが。
だが女同士で遊びに行って奢られるなんてことがあるだろうか?
通話を切ったあとに見せた噛みしめるような笑顔はなんだ?
男なのか? だとすれば放ってはおけない。
彼女の記録に男が現れるべきではない。
彼女の地図に男をマークさせるわけにはいかない。


「……ふう。あっついなぁ」
公園のベンチに座ると、すぐさまジュースのキャップを開ける。
火照った体に清涼感が浸透するのを感じる。
吹き抜ける風が気持ちいい。
「ねえ」
誰かに声をかけられる。振り向くと、パーカーを着た細身の人が立っていた。
薄っすらとしか見えない顔立ちとかすれ気味の声。男か女かもよくわからない。
「……! ど、どうかしましたか?」
正直に言って怪しい。私は少し警戒する。
「ねえ、さっきのって男?」
「何の話ですか?」
「さっきの電話の相手は男?」
「何を言って……」
「ダメだよ男は。キミの地図が汚れるからね、俊子さん」
「……!? まさか、お前……!」
確信する。ストーカーだ。
身に覚えがあった。SNSでしつこくコメントしてきたアカウント。
言葉で拒絶しようが、ブロックしようが、何度も何度も現れて荒らしてきた。
そのアカウントの口癖が『キミのログをつけたい』『キミの地図を描きたい』だった。
「キミは男と関わっちゃダメだ。キミの地図に男は必要ない」
「くっ……離して! 離せ! 誰か!」
「男とは縁を切るんだ。電話の男だけじゃないよ。地球上のすべての男と今後一切関わらないと誓うんだ」
「ふざけんな! イカれ野郎!」
「男は穢れだよ。キミの生きる過程に必要ない不純物だ。俊子さんの地図に存在してはならない不純物。俊子さんの地図は清廉で、華やかでなくてはならない。そうでないと意味がないんだ。男がいたら……」
ゴッ。
不意に鈍い音が響いた。ストーカーの体が揺れる。よろめくと同時に、どろっと一筋の血が流れた。
誰かに何かで殴られたのだ。
「……キサマ!邪魔を」
ゴッ。
「邪魔を……するな。今は大事な……」
ゴッ。
「私には……彼女の地図を守る……使命が……」
ゴッ。
何度も何度も、ストーカーが沈黙するまでそれは続いた。
うずくまるストーカーを蹴飛ばすと、人影は私に手を伸ばした。
「立てるか?」
「……うん、ありがとう、アカネ」
「やっぱコイツ、異常者だったんだな」
アカネは倒れ込んだストーカーを睨みつける。
「いやな、店出るときに怪しい奴がうろついてんのが見えたから、気になってついてきたんだよ」
「全然気づかなかった……」
「気のせいであってほしかったんだがな。まあとにかく無事でよかったよ」
パトカーのサイレンが響いてくる。
「アカネが呼んだの?」
「私がっていうか、あそこの人に頼んで呼んでもらった」
「やっぱりアカネは気が利くなぁ。ぶっきらぼうな割に」
「はっ。言ってる場合かよ」


「いやこれどうだあ!?ヘンじゃねーかこの色!?」
「どれどれ?」
「これどうよ? チーク。おかしくない?」
「あー、うん。塗りすぎ。絶対」
「だよなー。いやでももう手遅れだわ」
「あとで補正でなんとかすればいいんじゃない?」
「それしかねーな。ってかモモ、彼とはどーなの? 木山くんだっけ」
「あー。私、こないだ騒動あったじゃん? ストーカーとかで」
「あったな。マジ大変だったっしょアレ」
「うん。なんかそれ以来、急によそよそしくなっちゃったんだよね。めんどくさいと思われたのか」
「何じゃソレ!? 冷めるわー」
「うん、私もなんかどうでもよくなっちゃって」
「いやでもさ、そうなるとあのストーカー野郎の思った通りになっちゃったんじゃね!? なんだっけ、『彼女の周辺から男を消したかった』とか言ってたんしょ?」
「まあ確かにそれが悔しいっていうのはあるけど……ま、次があるでしょ。今は今しかできないことをしなきゃね。はい、チーズっと」
「あれ、撮ってる! アカウント復活したん!?」
「うん。これ」
「うわ、いいねエグッ! くそー、ライバル消えてほくそ笑んでたのになぁ。てかアンタマジ写真写りいいよね。その才能分けてほしいわ」
「あはは。あ、これ美味しいよ」
「え、どれどれ!?」
「これこれ。あ、でもあげないよ。自分で注文しな?」
「えー、ヒドくね!?」

Momo1999・16:57

チカちゃんと喫茶店にて!
最近カフェオレがマイブーム♪
やっぱり甘いものとコーヒーの組み合わせは最強!! #cafe #sweets


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