部屋に入ってパソコンを点ける。
制服を脱ぎ捨て、黒のキャミを身に纏う。
顔がわからなくなるくらい分厚い化粧。
秘密の配信の始まりだ。
ネットの世界は性の垣根が緩い。
『エロいね』『勃起した』易易と飛び交う。
欲情を表明することにためらいのない奴ら。
恥の概念がないのか。いやきっと違う。
奴らにとっては私は軽いんだ。
秘する価値のないエロでしかない。
最初の頃はドキドキしていた。
自分ではない新しい自分を認められた気でいた。
だがすぐにわかった。私は所詮替えの効くオモチャ。
奴らの心に刺さる存在ではないのだ。
非公開で『いいね』されるのが好きだ。
誰にも教えたくない、私は彼らの『とっておき』。
誰にも教えたくないけど心の片隅に焼き付いている。
目を背けたいけど目を離せない。そういう存在でありたい。
『エロいね』『シコれる』今日も飛び交う。
都合のいい配信マシーンをもてはやす奴ら。
私は急に腹が立って、手元のケーキを机にぶちまけた。
何度も拳を振り下ろし、丹念に潰した。
金切声を上げながらクリームまみれの手で全身を汚した。
戸惑え。見限れ。どこかへ消えろ。
私はお前らの思い通りにはならない。
得体の知れない存在になってやる。
それでも目を逸らせない奴だけ残れ。
私は歯を食いしばり、ディスプレイの向こうを睨みつけた。
『エロいね』『射精すぞッ!』今日も飛び交う。
私がヤケを起こしたくらいで世の中は変わらない。
バカげたパフォーマンスをもてはやす奴ら。
結局、替えの効くオモチャでしかないのか。
制服を脱ぎ捨て、着たくもないラバースーツを身に纏う。
過激さだけがエスカレートした救いようのない配信。
『非公開いいね』の数が増えていく、その快感だけが私の支えになる。
今日も誰かの、人に言えない『とっておき』になるために。
さあ、秘密の配信の始まりだ。
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